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福岡高等裁判所 昭和51年(う)409号 判決

本店所在地

東京都中央区銀座東四丁目一番地

(送達先 東京都板橋区大谷口二-四一-一)

振興鑛業開発株式会社

右代表者清算人

柳浦隆三

本籍

東京都板橋区大谷口町二の六四番地

住居

東京都中野区上鷺宮一の二の一七

会社役員

田中隆博

大正一一年三月七日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、昭和四二年三月二四日福岡地方裁判所が言い渡した判決に対し被告人らから控訴の申立があり、昭和四三年八月二七日福岡高等裁判所は破棄差戻の判決を言い渡したが、昭和五一年五月二九日福岡地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから適法な控訴の申立があったので、当裁判所は検察官中野勇夫出席のうえ審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人振興鑛業開発株式会社の本件控訴を棄却する。

原判決中被告人田中隆博に関する部分を破棄する。

被告人田中隆博を罰金一〇〇万円に処する。

被告人田中隆博が右罰金を完納することができないときは金一万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

差戻前の第一審、第一次控訴審及び差戻後の第一審の訴訟費用はその二分の一を被告人田中隆博の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は被告人田中隆博及び弁護人徳永竹夫提出の各控訴趣意書、被告人田中隆博提出の上申書(昭和五二年六月二八日付)、控訴趣意書並びに上申書訂正書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

第一  被告人田中隆博の控訴趣意書(一)、(三)ないし(六)(事実誤認)、上申書、控訴趣意書並びに上申書訂正申立書(以下単に控訴趣意書という)、弁護人徳永竹夫の控訴趣意書第六点中同被告人に犯意がなかったとの主張について。

所論は要するに、原判決は、被告人田中が被告人振興鑛業開発株式会社(以下単に被告会社という)の代表取締役として被告会社の経営、経理、事務全般を総括主宰していたとの前提で、被告人田中が被告会社の法人税の逋脱を企て、不正の手段により所得を過少申告し、法人税を逋脱したと認定したが、本件当時被告会社の実権は会長で、父でもある故田中彰治が握っており、被告人田中は会長の指図のままに動いていたに過ぎず、法人税逋脱の犯意はなく、不正な手段で法人税の過少申告したこともないと言うのである。

しかし、原判決挙示の関係証拠によると、被告人田中が判示認定の不正手段により所得を過少申告し、法人税を逋脱したことを優に肯認することができる。

すなわち、被告会社は昭和二一年頃から田中彰治が日鉄二瀬鑛業所の斤先掘をして石炭の採掘、販売を営んでいた振興炭鑛を昭和二三年三月会社組織に改めたもので、被告人田中は同会社設立と同時に取締役となり、昭和二四年四月には代表取締役に就任し、本件当時も代表取締役として同会社の経営、経理事務全般を総括主宰していたところ、昭和二六年一一月末か一二月始め頃、義母田中フサ子、社長秘書三浦伊作美と相談のうえ、会長宅に被告会社の振興鑛業所(以下振興炭鉱という)における会計課長福島太郎、同係長赤城潔、被告会社の丸吉鉱業所(以下丸吉炭鉱という)における会計課長渡辺喜昭、同係員大久保節夫を集合せしめ、昭和二六年度の法人税確定申告に際し、二重帳簿を作成し、実際の所得より少なく申告するよう指示したこと、そこで右赤城らは昭和二七年一月一〇日頃から、同年五月二五、六日頃まで振興炭鉱会館内の映写室に閉じこもり、帳簿の作り替えなどの作業をし、同年五月二八日被告人田中の署名捺印を得たうえ、同月二九日所得金額九五六万八、〇三四円、法人税額四〇一万八、五六〇円とする虚偽の法人税確定申告書及び附属書類を飯塚税務署長に提出したことが認められ、論旨は理由がない。

なお所論は、被告人らは国税係官の行政指導に従って右確定申告書を作成しており、国税当局から新設免税坑の認可を受けていたというけれども、後で述べるとおり免税の適用を受けるには確定申告の際免税の申告を要するところ、右確定申告書には新設免税坑に関する書類など添付されておらず、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

また所論は、本件起訴が時効期間経過後なされたものであるとも主張するようであるが、刑事訴訟法二五〇条五号、昭和四〇年三月三一日法律第三四号附則一九条、昭和三七年三月三一日法律第四五号附則第一一項、昭和三二年三月三一日法律第二八号附則第一六項、昭和二九年三月三一日法律第三八号附則第九項により改正前の法人税法(以下旧法人税法という)四八条一項、五一条によると、本件の公訴時効期間は三年であるところ、本件起訴は本件の確定申告のなされた日から三年を経過しない間の昭和三〇年五月二八日なされたことが記録上明らかであり、論旨は理由がない。

第二  弁護人の控訴趣意書第四点(事実誤認)、被告人田中の控訴趣意書(九)(事実誤認)について。

所論は要するに、振興炭鉱の旧坑(租鉱区第一三四号)、及び丸吉炭鉱の第三坑はいずれも免税坑の実体を具備しているのに、原判決が両坑からの出炭による所得を課税の対象としたのは重大な事実の誤認であると言うのである。

よって案ずるに、本件当時施行されていた旧法人税法六条一項、二項、同法施行規則二条四号、三条ないし五条によると、石炭採掘の事業を新設した場合並びに石炭採掘の事業を増設し、その産出能力が増設前の一〇分の三以上増加した場合は事業開始の日から三年間法人税を免除する、ただし、いずれの場合も法人税の確定申告の際免除の申告を要件とする旨規定されているところであり、これを本件についてみるに、差戻前第一審での証人筒丸米蔵、同塩出幸男、同山本勲、同城彰臣の各尋問調書、筒丸米蔵(昭和三〇年六月八日付)、塩出幸男(同年五月二七日付)、山本勲(同年六月七日付)、城彰臣(同年五月一九日付)の検察官に対する各供述調書、押収してある昭和二二年四月以降出送炭実績表(福岡高等裁判所昭和五三年押第二号の四四)によると、振興炭鉱の旧坑は昭和二二年一月頃開坑され、遅くとも昭和二三年三月には相当量(一、八七〇屯)の出炭があったことが認められ、この時点では前記条項にいう事業開始があったとみるべきであるから、昭和二六年四月から始まる本事業年度では既に免税期間が経過していることが明らかである。また、差戻前第一審証人木村金二(第三〇回公判)、同川原紀明(第三一回公判)の各供述並びに福岡通商産業局長作成の認可書によると、丸吉三坑は昭和二六年一〇月開設されたことが認められ、昭和二七年三月に精炭一四一屯を出炭するに至ったことは原判決の認定するところである。しかし、前記のとおり免税の適用を受けるには確定申告の際、免税の申告を要するところ、右の申告がなされていないことは押収してある確定申告書(同押号の七二)により明らかであり、原判決が同坑からの出炭による所得を課税の対象としたのは正当である。論旨はいずれも理由がない。

第三  弁護人の控訴趣意書第一点(事実誤認)、第二点(事実誤認、理由不備、理由そご)、第三点(理由不備)、被告人の控訴趣意書(七)、(八)、(一〇)ないし(一二)(事実誤認)について。

所論は、原判決には幾多の誤りがあると主張し、その趣旨は多岐にわたるが、右論旨のうち先ず原判決は被告会社の課税所得を確定するに当り、同会社が振興炭鉱と丸吉炭鉱の二事業所を有し、それぞれ免税坑と課税坑があって、各坑はそれぞれ炭層状況、カロリー、歩溜率、採掘条件、採炭能率を異にするのを無視して免税坑、課税坑毎に損、益金の区分計算をしたのは失当であると主張する点について検討することとする。

被告会社が振興炭鉱と丸吉炭鉱の二事業所を有し、振興炭鉱では旧坑(租鉱区第一三四号)と新坑(福採登第一六九八号)で、丸吉炭鉱では第一坑、第二坑および第三坑でそれぞれ採炭されていたところ、本件起訴は振興炭鉱の旧坑並びに丸吉炭鉱の第一坑及び第三坑のみを課税の対象として捉え、振興炭鉱の新坑と丸吉炭鉱の第二坑はいずれも被告会社において免税手続はしていなかったが、免税坑の実体を具備していることを考慮し、起訴の対象としなかったこと、被告会社では会社経理の主体として各事業所毎に会社帳簿を整備していたが、各事業所内にあっては課税坑、免税坑の区別をせず、一体として会計帳簿に記帳していたことは記録及び関係証拠によって明らかである。そこで本件のように法人が課税事業と免税事業を兼営し、しかも会社経理上両者の区分がなされていない場合、課税所得と免税所得を区分計算する方法が問題となる。

ところで租税逋脱犯における逋脱所得額の認定に当っては「収入と支出とを記載した帳簿書類や収入、支出に関する証言、供述等から直接認定する場合のほか、いわゆる推計の方法すなわち財産や負債の増減、収入・支出の状況、取扱量、事業の規模、対比に値する同業者の業績等を示す間接的な資料から所得金額を推認して認定する方法も、その方法が経験則に照らし合理的であると認められる限りにおいては、当然に許容されるものであり、要はそれによって合理的な疑いをさしはさむ余地のない程度の証明を得られれば足りる」(最高裁昭和五四年一一月八日第二小法廷決定、刑集第三三巻第七号六九五頁)のであって、同様のことは本件のように、課税事業と免税事業を兼営する法人につき、課税事業と免税事業の損益を区分計算して課税所得の逋脱額を認定する場合にも言えるところである。

そこで本件について、課税所得と免税所得の合理的な区分方法を検討すると、(一)課税坑、免税坑の何れに属するか明瞭な損、益金はそれぞれ専属区分による、(二)両者に共通するもの、あるいは共通ではないが、両者合算されているものについては、性質、内容により推計、区分するほかなく、例えば損、益の各項目の性質、内容に応じ、販売屯数、出炭屯数、出炭函数、従業員数、支払賃金、使用電力量のほか炭層状況、歩溜率、カロリー、採掘条件、設備機械の配置状況、採炭能率などの差異を可能な限り考慮し、可及的客観的事実に近い比率で区分計算するのが相当であり、その限りでは(総論としては)、論旨も理由がある。しかし、原判決の区分計算を損、益の各項目について検討すると、原判決が差戻判決の趣旨に従い、各坑毎に専属区分できるものはこれによって算定し、然らざるものについてはその性質、内容に従いできる限り客観的事実に近い比率で推定区分して算定しようとしたところは、概ね合理的な基準によるものと認められる。

所論は、各坑はそれぞれ炭層状況、採掘条件、石炭の歩溜、カロリーその他が異なっているのに、原判決がこれらの実情ことに歩溜を無視したのは誤りであると主張するが、出炭量の記録は坑口で一函毎に検量した検炭野取表が最も信頼のおけるものであり、これに基づいて日毎に歩溜を乗じて出炭屯数を換算したのが日別出炭予定実績表であるから(原判決挙示の関係証拠のほか差戻前第一審証人渡辺藤次の第三六回公判廷での供述参照)、原判決がこれらの証拠により炭量を認定したのは相当である。その他所論に鑑み記録及び原裁判所において取り調べた証拠を精査し、かつ当審における事実取調の結果を検討してみても、原判決に所論のような判決に影響を及ぼすことの明らかな重大な事実誤認、理由不備ないし理由そごがあるとは認められない。

なお、所論のうち主な点につき逐一項目を追って検討することとする。

一  振興炭鉱

(一)  販売収入

石炭の売買はカロリーを指示して行なわれ、売価は一屯一カロリーを単位として決められていたことが原判決挙示の関係証拠によって明らかである。したがって総販売収入を各坑毎に区分するには、各坑毎の販売量が分かればその販売した石炭の総カロリーを求めてその比で按分するのが最も合理的である。しかし、出炭量については各坑毎の月別、年度別の克明な記録があるが、本件全証拠によるも販売量は両坑合算したもののみで各坑毎の記録はない。

そこで原判決はこれも両鉱合算した数字である繰越貯炭三六一屯を、昭和二六年三月分の各坑の出炭量(課税坑五七六屯、免税坑二九二一屯)の比によって按分して各坑の繰越貯炭(課税坑五九屯、免税坑三〇二屯)を算出し、同じく期末貯炭一八九屯を昭和二七年三月の各坑の出炭量(課税坑二二一屯、免税坑二七八九屯)の比で按分して各坑の期末貯炭(課税坑一四屯、免税坑一七五屯)を算出したうえで、各坑毎に昭和二六年度の出炭量(課税坑四六九一屯、免税坑三万二〇四〇屯)に繰越貯炭を加え、期末貯炭を差引いたもの(ここでは当期送炭量と言う)に原判示の各坑の一屯当りのカロリーを乗じた総カロリー数の比で販売収入を按分しているが、採炭から販売に至る各段階での炭量の把握が正確であれば、本来当期販売量と当期送炭量とは一致する筈のものであり、各坑の当期販売量に代るものとして各坑の当期送炭量を用いたのは妥当である。

ただ、両坑合算した総販売量は三万六六七五屯であるのに(押収してある備忘録(同押号の二四)、福島太郎の検察官に対する昭和三〇年六月一一日付供述調書参照)、両坑の総出炭量は三万六七三一屯であるから、両坑の当期総送炭量は三万六七三一屯+三六一屯-一八九屯=三万六九〇三屯となって、当期総販売量より当期総送炭量の方が二二八屯多くなる。しかし、二二八屯の総出炭量に対する割合は〇・六二パーセントであって、その程度の誤差は許容し得る程度であり、しかもその誤差も出炭量にほぼ比例するものと考えられるから、送炭量の中の出炭量の大きさを考えると、全体の総カロリー数比の中ではその誤差は殆んど零に近く解消するものと言い得る。

前記計算の過程で繰越貯炭を昭和二六年三月の各坑の出炭量比で、期末貯炭を昭和二七年三月の各坑の出炭量比で按分して各坑の繰越貯炭、期末貯炭を算出したのは、繰越貯炭は昭和二六年三月出炭の残高、期末貯炭は昭和二七年三月出炭の残高とみられるからであり合理的な按分方法と言い得る。

以上のとおり原判決の総販売収入の按分について格別不合理なところは見当らず、本件全証拠に照らし、各坑の一屯当たりのカロリー数その他原判決の認定した数値に事実誤認はない。

(二)  営業外収入

原判決挙示の関係証拠によると、営業外利益の内訳は(イ)銀行預金の利息三万九〇四二円、(ロ)電力料金過払分戻り二〇九九円であることが明らかである。原判決はいずれもこれを出炭函数比で按分しているが、銀行預金の利息は収入比によるのがより合理的である。電力料金払戻しは使用電力量が分かればそれによるのが最も合理的であるが、記録を精査するも明らかでない。ところで被告会社では電力は事務用のほか大部分は採炭から精炭に至る全生産過程で使用しているものであり商品炭として精炭されるまでの石炭の炭量は出炭函数で表わし、右過程での使用電力量は出炭函数に比例するものであること、事務用に使用の電力量は従業員数で按分するのが合理的であるが、事務用使用の電力量の割合は明らかでなく、他方後記(五)でみるとおり各坑の従業員数も明らかでなく、労務費についてさえ出炭函数比で按分するしかなかった事情などを綜合すると、使用電力量比に代る按分基準として出炭函数比によるのも格別不合理とは言えない。

そこで(イ)の銀行預金の利息三万九〇四二円を原判決認定の各坑の販売収入(課税坑二八七六万八八九一円七三銭、免税坑一億八九五〇万七九八〇円二七銭)の比で按分すると、課税坑分は五一四五円七四銭となり、(ロ)の電力料金過払分戻り二〇九九円を原判決挙示の関係証拠によって認められる出炭函数(課税坑九七七七函、免税坑五万五八六九函)の比で按分すると、課税坑分は三一二円六一銭となり、課税坑の営業外収入の合計は五四五八円三五銭となる。これを原判決の認定額と比較すると、課税坑の営業外収入は六六七円五四銭少なくなる。

(三)  期末貯炭

原判決は両鉱の販売量から両鉱の繰越貯炭量を差引き、これに両鉱の期末貯炭量を加えたものを両坑の当期産出量とし、これで両鉱の石炭原価を除して一屯当りの石炭原価を求め、これに両鉱の期末貯炭量を乗じて両鉱の期末貯炭額を算出したうえ、これを各坑に按分するため、前記(一)同様昭和二七年三月の各坑の出炭量比で乗じており、これも一応合理的と言い得る。しかし、石炭原価自体が各坑によって異なるのであるから、各坑毎の当期産出量で各坑毎の石炭原価を除して各坑の一屯当たりの石炭原価を求め、これに各坑の期末貯炭量を乗じる方がより直截で合理的である。これによると、課税坑の当期産出量は昭和二六年度の出炭量四六九一屯-繰越貯炭量五九屯+期末貯炭量一四屯=四六四六屯であるから、これで原判決認定の課税坑の石炭原価一五〇三万七九八八円三〇銭を除すと、一屯当りの石炭原価は三二三六円七六銭となる。これに課税坑の期末貯炭一四屯を乗ずると、課税坑の期末貯炭額は四万五三一四円六四銭となり、原判決認定の三万七八四六円八九銭より七四六七円七五銭多くなる。

(四)  繰越貯炭

原判決挙示の関係証拠によると、原判示のとおりの繰越貯炭額を認定できるが、これを専属区分するに足りる証拠はない。そこで原判決は右繰越貯炭額を昭和二六年三月の各坑の出炭量比で按分して課税坑の繰越貯炭額を算出しているが、右の按分方法は前記(一)で述べたとおり合理的である。

(五)  石炭原価

先ず、労務費について検討するに、各坑別の各種従業員数が明らかであれば、従業員数比で按分するのが最も合理的であるが、記録を精査しても各坑別の各種従業員数は明確でない。差戻前第一審証人小山内弘は第二七回公判期日で新坑と旧坑の従業員数比が七対三である旨供述しているが、押収してある復興金融公庫外銀行関係書類綴(同押号の八五)によって認められる両坑の坑内状況、特に新坑の方が旧坑に比較し、坑道が四倍長く、海底面下の深さが二倍深く、湧水量が四倍あって、しかも可然ガスが多いこと、したがってそれだけ石炭運搬に労力を要し、各種捲上機、排水排ガスのための各種機械、設備、その運転のための人員を要することなどに照らし、措信し難い。原判決は出炭函数比によって按分しているが、出炭函数比こそは生産過程での各種出費の最も明確な按分基準となり得るものであり、精炭に対する歩溜り、採炭能率をも加味し得ること、しかも差戻前第一審証人川原紀明の第三八回公判期日での供述、同審証人渡辺藤次の第三六回公判期日での供述、同審証人小山内弘の尋問調書によると、坑外夫、職員数はほぼ坑内夫の数に比例し、坑内夫の賃金は出炭函数を単位として決めていたことが認められ、以上によると出炭函数比による按分も合理的と言い得る。

物品費のうち木材費は坑内車道の延長など坑内大工用、炭車修理、職員宿舎など坑外設備の修理、その他種々雑多なものがあり、その各内訳の占める割合は必ずしも明らかでないが、坑内大工用及び炭車修理が大部分を占めるものと推認される(押収してある木材類受払帖(同押号の一一)参照)。したがって、坑道の長さの比で按分すべきもの、出炭函数比で按分すべきもの、従業員数比で按分すべきものなどまちまちであるが、先に述べたとおり各坑の従業員数が明らかでないばかりか右の内訳の割合が明らかでない以上木材費全体を按分する基準としては不適当である。以上のほか前記の各坑の坑道の長さその他坑内状況、本来従業員数比で按分すべき労務費についても出炭函数比で按分しなければならなかった事情などを総合して判断すると、出炭函数によるほかなく、また実際の課税坑の負担部分が出炭函数比による按分額を下回ることはないものと思われる。

物品費のうち自家消費炭、事務消耗費、経費のうち旅費、通信費は従業員数にほぼ比例するものと考えられるから、労務費同様出炭函数比によるのが妥当である。

その他の物品費、経費のうち旅費通信費、租税公課を除くものは原判決挙示の関係証拠によると、各種機械、設備の運転、維持、管理にかかる費用であり、これら機械設備は両坑共通のものも多いと認められるが、本件記録を精査するも、各種機械、設備の正確な規格、配置状況等は明らかでなく、右のほか本項で説示したことを綜合すると、出炭函数比によるほか他に合理的な按分基準はなく、前記坑内状況に鑑みると、却ってその方が被告人に有利である。

租税公課、本社費、支払利子はいずれも各坑共通のものであるが、一応明確な按分基準としては出炭函数比、出炭屯数比、収入比が考えられるが、出炭屯数比を採ると歩溜を無視することになり、出炭函数比を採ると歩溜の良い坑に有利で、収入比を採ると歩溜ないし採炭能率の良い坑に不利となる。本来課税坑と免税坑は別個独立の経理により損益を計上すべきであるから、各坑独立経営という考え方を基本として按分基準を採るのが相当である。そうすると、各坑の歩溜を加味し得る出炭函数比によるのが妥当である。

(六)  販売費

販売費は販売量比で按分するのが最も合理的であるが、各坑毎の販売量は明らかでないので、各坑の販売量に最も近い各坑の送炭量で按分するのが合理的である。(一)によると、課税坑の送炭量は四六九一屯+五九屯-一四屯=四七三六屯、免税坑の送炭量は三万二〇四〇屯+三〇二屯-一七五屯=三万二一六七屯であるから、この比で原判決認定の販売費一〇四二万三二七〇円を按分すると、課税坑の負担分は一三三万七六八五円四五銭となり、出炭函数比で按分した原判決の認定額より却って二一万四三三九円四五銭安くなる。

二  丸吉炭鉱

(一)  販売収入

販売収入の按分の当否に先立ち、論旨のうち、原判決は各坑の歩溜を無視した結果、出炭量、販売量その他の炭量の認定を誤り、ことに免税所得となるべき混炭の事実を誤認したとの点について検討する。

検炭野取表及び日別出炭予定実績表により認定した炭量が歩溜その他を考慮した最も正確なものであることは前に述べたとおりであるところ、原判決の証拠の標目と認定理由(二)の(1)に挙示の関係証拠のほか押収してある検炭野取表綴一冊(前同号の三五)によると、昭和二六年度の販売量は三万三四六〇屯、同年度の出炭量は課税坑(第一坑二万〇九〇七屯+第三坑一四一屯)二万一〇四八屯、免税坑七六七〇屯(うち田川四尺層五三六九屯、田川八尺層二三〇一屯)であり、繰越貯炭は五一八屯、期末貯炭は一七三屯、昭和二六年三月の出炭量は課税坑(第一坑)二六三八屯、免税坑五四七屯、昭和二七年三月の出炭量は課税坑(第一坑二八〇九屯+第三坑一四一屯)二九五〇屯、免税坑五六一屯であることが認められ、記録を精査するも右の炭量の認定に誤まりはない。

ただ、右の認定によると、出炭量二万八七一八屯に繰越貯炭五一八屯を加え、期末貯炭一七三屯を引くと、当期送炭量は二万九〇六三屯となり、販売量より四三九七屯少なくなる。販売量と送炭量は本来一致すべきものであり、当時出炭量が坑内夫の賃金の単位とされ、会社経営の指標でもあったところから、出炭量の記録はかなり厳密になされていたこと(差戻前第一審証人小内山弘の尋問調書、前記渡辺藤次の供述)などに照らすと、出炭量に対し一五パーセントにのぼる右の差は無視し得ないものがある。ところで前記小内山弘の尋問調書、差戻前第一審証人三浦伊作美の第三七回公判廷における供述によると、本件当時は朝鮮動乱の影響もあって石炭の需要が多く、生産が追いつかない程であり、カロリーの低い低品位炭でも売れたところから、免税坑から出炭した七〇〇〇カロリー程度の石炭に低カロリーのほた(硬)を混入して五〇〇〇カロリー程度の混炭とし、これを主として電力会社向けに販売していたことが認められ、右の差四三九七屯は混入したほたの重量とみるほかはない。

所論は混入したほた分の所得もすべて免税所得である旨主張するが、押収してある日別出炭予定実績表(同押号の三四)によると、混炭が多くなったのは昭和二六年一〇月頃からであり、混入したほたの割合もほぼ半量に達していたことが窺われ、これからすると、混入したほたのカロリーは三〇〇〇カロリー程度であったことが計算上明らかであるところ、本件記録を精査しても混入したほたの出所は明らかでなく、免税坑から出たことが明らかでない以上これを免税所得とすることはできない。

原判決は販売収入の按分については振興炭鉱の場合と同様の方法で各坑の当期送炭量を算出し(課税坑第一坑四二九屯+二万〇九〇七屯-一三八屯=二万一一九八屯、課税坑第三坑一四一屯-七屯=一三四屯、免税坑田川四尺層六二屯+五三六九屯-二〇屯=五四一一屯、同田川八尺層二七屯+二三〇一屯-八屯=二三二〇屯)、これに各坑の一屯当りのカロリーを乗じた各坑の総カロリー比で按分しているが、右の計算方法は混入ほた四三九七屯分の販売収入を考慮しない限り極めて合理的である。ただ右の計算でも混入ほた分の販売収入を全然無視しているわけではなく、ほた分の収入も各坑の総カロリー比で按分していることになり、それもそれ程不合理ではない。試みにできる限り正確なほた分の販売収入の按分方法を検討するに、販売収入のうち混入ほた分を除外したものと、混入ほた分とを分けて計算式を考える必要があり、前者については各坑の当期送炭量分の総カロリー比で、後者についてはほたの出所が明らかでない以上各坑の出炭量比(炭層状況からすると、却って課税坑の方が出炭量比以上にほたを出した可能性が強い)で按分するのが相当である。そこで混入ほた分の価額を計算すると、前記のとおり混入ほたのカロリーは約三〇〇〇カロリーであり、一屯一カロリー当りの単価は九〇銭であるから(前記証人三浦伊作美の差戻前第一審での供述参照)、四三九七屯×三〇〇〇カロリー×〇・九円=一一八七万一九〇〇円となる。これを販売収入から差引くと、一億七五七四万〇七二三円八一銭がほた分を引いた販売収入である。次に前記各坑の当期送炭量に原判決挙示の関係証拠によって認められる各坑の一屯当たりのカロリー数(課税坑第一坑六八〇六カロリー、同第三坑四九九四カロリー、免税坑の田川四尺層七三四六カロリー、同八尺層七一四二カロリー)を乗じて総カロリーを計算すると、課税坑(第一攻及び第三攻)一億四四九四万二七八四カロリー、免税坑(第二坑)五六三一万八六四六カロリーであるから、右の総カロリーの比でほた分を除いた販売収入を按分すると、課税坑一億二六五六万三四九三円三〇銭、免税坑四九一七万七二三〇円五一銭となる。そしてほた分の販売収入を前記各坑の当期出炭量比で按分すると、課税坑の分は八七〇万一一五四円三六銭となり、課税坑のほた分の販売収入を含む全販売収入は一億三五二六万四六四七円六六銭となる。これを原判決の認めた額と比較すると、却って課税坑の販売収入は一六万四七九七円二一銭多くなる。

所論は、丸吉炭鉱第一坑の販売収入は一億〇七四一万六七八六円六五銭しかなく欠損赤字であったと主張し、差戻前第一審証人下河内邦彦の第一九回公判廷における供述、差戻後第一審証人石井重信、同宮永正雄の第五回公判廷における各供述中には右主張に添う部分もあるが、前掲各証拠により認められる各事実に照らしたやすく措信できない。

(二)  営業外収入

原判決挙示の関係証拠のほか本件記録を精査しても営業外収入の内訳は明らかでなく、性質、内容に応じた合理的な按分基準の検討の余地も少ないが、一応各坑共通のものと思われるので一の(五)の租税公課等について述べた様に各坑独立経営という考え方を基本とすると、出炭函数によるべきであり、これによった原判決は妥当である。

(三)  期末貯炭

原判決は振興炭鉱と同様、全坑の当期算出炭一屯当りの石炭原価を求め、これに全坑の期末貯炭屯数を乗じて得た期末貯炭額を各坑の昭和二七年三月の出炭量比で按分して各坑の期末貯炭額を算出しているが、一の(三)で述べた様に、各坑の当期算出屯数で各坑の石炭原価を除して、各坑の一屯当りの石炭原価を求め、これに各坑の期末貯炭屯数を乗じて各坑の期末貯炭額を算出する方がより直截かつ合理的である。そこで右の計算式によると、課税坑(第一坑及び第三坑)の当期産出量は、二万一〇四八屯+一四五屯-四二九屯=二万〇七六四屯であるから、これで原判決認定の課税坑の石炭原価一億一九七二万二九四一円九三銭を除すと、一屯当りの石炭原価は五七六五円九〇銭であるから、これに課税坑の期末貯炭一四五屯を乗ずると、課税坑の期末貯炭額は八三万六〇五五円五〇銭となる。これを原判決認定の期末貯炭額と比較すると、一三万〇〇二四円九八銭多くなる。

(四)  繰越貯炭

原判決挙示の関係証拠によると、判示のとおり繰越貯炭額を認定することができるが、これを専属区分するに足りる証拠はない。そこで原判決は昭和二六年三月の各坑の出炭量比で按分しているが、右の按分方法は一の(一)で述べたとおり合理的である。

(五)  石炭原価

先ず労務費について検討する。原判決は労務費のうち鉱員給料については専属区分の判明した分が全体の八割に達しているところから、専属区分の判明しない分も判明した分の賃金の割合(課税坑七割四分、免税坑二割六分)で按分しているが、右の方法は合理的である。そこでその他の労務費について検討するに、本件記録を精査するも各坑の従業員数は明らかでないが、坑内夫の賃金は出炭函数により決まり、坑外夫、職員の人数は坑内夫の人数にほぼ比例することは振興炭鉱の場合と同様であるから原判決が出炭函数比で按分したのは合理的である。差戻前第一審証人川原紀明は第三一回公判廷で鉱員は第一坑三五〇人、第二坑八〇人であった旨供述しているが、原判決挙示の関係証拠によると、専属区分の判明した分が全体の八割に達した鉱員給料の各坑別内訳は第一坑三五九九万六三〇六円七三銭、第二坑一二九四万九二八六円二六銭であり、右の第一、二坑の賃金の比率に照らし措信できない。

物品費のうち自家消費炭、事務消耗費、経費のうちの旅費通信費、控除額については一の(五)で述べたように出炭函数による按分が妥当である。次に物品費のうち木材費について検討するに、坑内状況を除いて丸吉炭鉱についても振興炭鉱の場合と同様のことが言える。坑道の長さは第一坑が第二坑より二・二倍長く(押収してある復興金融公庫外銀行関係書類綴、同押号の八五参照)、出炭函数では第一坑の方が約二・八倍多いから、右の点をも考慮すると、出炭函数による按分も合理的と言い得る。その他の物品費、並びに経費のうち旅費、通信費、租税公課を除くものについても、振興炭鉱の場合と同様機械、設備の規格、配置など明らかでないので、出炭函数比によって按分するほかはない。租税公課、本社費、支払利子については振興炭鉱について述べたのと同様の理由で出炭函数比による按分が妥当である。

(六)  販売費

販売量比で按分するのが最も合理的であるが、本件記録を精査するも各坑別の販売量は明らかでないから、これに最も近い各坑別の送炭量比で按分するのがよい。そこで前記二の(一)によると、送炭量は課税坑(二万一〇四八屯+四二九屯-一四五屯)二万一三三二屯、免税坑(七六七〇屯+八九屯-二八屯)七七三一屯であるから、この比で按分すると、課税坑の負担分は五八七万三九八六円三六銭となり、これを出炭函数比で按分した原判決の認定額と比較すると、六万〇〇八七円六二銭負担額が少なくなる。

(七)  営業外支出

原判決挙示の関係証拠のほか本件全記録を精査するも、営業外支出の内訳は明らかでなく、その性質、内容に応じた按分基準を検討する余地はないが、右は各坑に共通する支出であると思われるから、営業外収入と同様各坑独立経営という考え方を基本とすると、原判決の採用した出炭函数による按分方法は合理的である。

三  まとめ

以上振興炭鉱、丸吉炭鉱を通じ、損益の各項目毎に区分計算の方法について検討したが、概ね合理的と言い得る。ただ、損益の各項目についてさらにその内訳、その割合が明らかでないため、その性質、内容に応じた按分基準を検討することができないこと、他方各種炭量のほかは従業員数その他按分基準として採用するに足る明確な数値がないことなど二重の困難があって、(これらの点はもともと被告会社において免税坑と課税坑とを区分して記帳していなかったことにその原因がある。)振興炭鉱の(二)営業外収入、(三)期末貯炭、(六)販売費、丸吉炭鉱の(一)販売収入の一部、(三)期末貯炭、(六)販売費などわずかに不合理な点がみられないではなく、右の各項目についてはより合理的な按分方法によって計算し、その結果を綜合すると、却って振興炭鉱で二二万一一三九円六六銭、丸吉炭鉱で二三万四七三四円五七銭、合計四五万五八七四円二三銭だけ課税所得が増加し、これを端数計算に関する法律に従い一〇〇円未満の端数を切捨て、税率一〇〇分の四二を乗ずると、逋脱税額は原判決認定の八五六万三八〇〇円より一九万一四三六円増えることになるが、その差は二パーセント余に過ぎず、もとよりこの程度では判決に影響を及ぼす重大な事実誤認とは言えない。

特に個別に判断したほか、原判決認定のカロリー数、各種炭量、販売収入、その他の数値は原判決挙示の関係証拠によって認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。また、所論は原判決に幾多の違算があると主張するが、これに添う証拠が必ずしも十分でなく、その挙示する証拠も原判決挙示の関係各証拠に照らし必ずしも措信できないので、論旨はいずれも理由がない。

第四  被告人の控訴趣意(一三)、(一四)、(一六)、(一八)ないし(二四)(事実誤認)、弁護人の控訴趣旨第五点(事実誤認)について。

所論は要するに、本件当時の法人税法では無制限であった被告会社の交際費、山吉炭坑への貸倒金、木材代金、退職給与引当金、鉱害賠償引当金、鉱害賠償費等を被告会社の損金として認容しなかった原判決には事実の誤認があると主張するものであるが、原判決がその挙示する関係証拠によって被告会社の経費及び損金と明らかに認められるものだけを認容したのは相当である。以下項目を追って説明する。

一  山吉炭鉱の貸倒損金について

第一次控訴審証人川原紀明の第五回公判廷における供述、同河野正直の第六回公判廷における供述によると、被告会社の傍系会社である山吉炭鉱の鉱山が昭和二六年一〇月大断層に逢着したため、以後残炭を掘りながら撤収し、昭和二八年に閉山したことは認められるが、本件記録を精査するも右会社に対する債権が回収不能になったとの事実を認めるに足る証拠はなく、原判決がこれを損金に計上しなかったのはもとより当然である。

二  被告人田中個人及び家族の生計費について

原判決挙示の関係証拠によると、被告人田中主張の〈A〉、〈B〉、〈C〉、〈D〉、〈E〉、〈F〉、〈H〉、〈I〉、〈J〉、〈K〉、〈L〉、〈O〉、〈P〉は当時被告会社の会長であった田中彰治及び同人の家族の生計費〈N〉は被告会社と関係のない別会社の費用であることが明らかであるから、これを経費として認容しなかったのは当然である。〈G〉、〈M〉については、原判決は経費から控除していないが、これも別会社の費用であることが明らかであるから(赤城潔の検察官に対する昭和三〇年四月二九日付供述調書、押収してある収支伝票九冊(同押号の二七)中昭和二六年一二月一四日付出金伝票(見出1の1のもの)及び領収書(見出1の2のもの)、昭和二七年一月二九日付出金伝票(見出10のもの)及び領収書(見出10の2のもの)参照)、これも被告会社の経費から控除すべきであるが、少額(合計二七八〇円)であるので、重大な事実誤認とは言えない。

三  交際費について

原判決は振興、丸吉両鉱からの送金額など東京本社の受入金額合計六五四一万円のうち四三二万一〇八二円は政治資金関係に使用されたとしてこれを本社の経費として認めなかったことが判文上明らかである(原判決二一丁)。被告人田中は右金額は交際費であるから損金として認容すべきことを主張するが、原判決挙示の関係証拠によると、右金額は田中彰治の政治活動の資金として使用されたことが認められ、本件記録を精査するも、これが交際費として使用されたことを認めるに足る証拠はないので、原判決がこれを経費として認めなかったのは相当である。弁護人はさらに、被告会社は当時三井鉱山本社、日鉄鉱業本社に経営全般にわたって協力援助を受けており、右会社との会合、交渉などの交際費として三〇〇〇万円を使用したから経費として認容すべき旨主張するが、本件記録を精査するも右事実を認めるに足る証拠はない。

四  退職給与引当金、鉱害補償引当金について

右のうち鉱害補償引当金は当時法人税法上損金算入が認められていなかったものであり、退職給与引当金は昭和二七年二月施行の政令一二号により、確定申告書に損金算入の記載があるほか本事業年度終了の日現在の退職給与の額、前事業年度終了の日現在の退職給与の額及びその差額などを記載した書類の添付、確定申告書提出期限までに退職給与規定の提出を要件として損金算入が認められるようになったが、本件記録を精査するも被告会社が退職給与引当金について右の手続をとったことを認めるに足る証拠はない。原判決挙示の関係証拠によると、被告会社において各引当金として計上した額のうち振興炭鉱関係では、退職給与引当金につき一五万五五〇〇円、鉱害補償引当金につき二四八万六六二五円七五銭、丸吉炭鉱関係では退職給与引当金につき二八万六四二八円九六銭、鉱害補償引当金につき二六四万一三六〇円四〇銭がそれぞれ現実に支出されたことが認められ、原判決が右の各金額のみを損金として認容したのは相当である。

五  木材代金について

被告人田中は実父田中彰治所有の山林から切り出した木材の代金一二三万四九九一円を損金として認容しなかったのは不当である旨主張するが、原判決挙示の関係証拠及び判文によると、右木材代金は物品費のうちの木材代金の一部として全額認容されていることが明らかであり、右主張は失当である。

六  鉱害賠償費について

被告人田中は振興、丸吉の両事業所において合計三一五八万三五二一円を鉱害賠償費として支払ったのに、これを経費として認容しなかったのは事実誤認である旨主張するが、本件記録を精査するも、右損害賠償債務が昭和二六年度内に発生したことを認めるに足る証拠はなく、論旨は理由がない。

七  減価償却について

所論は振興炭鉱の鉱業権及び鉱業用固定資産の減価償却をなすにあたり、鉱山の命数、経済的可採炭量を被告会社の帳簿上の記載より大幅に少ない数値を挙げ減価償却額の不足を主張するのであるが、とくに振興炭鉱の鉱業権の減価償却をなすにつき鉱山(新坑)の命数を四年としたのは、昭和三〇年に閉山したことを理由としているようであるが、閉山するに至ったのは本件事犯による信用失墜が原因であって(第一次控訴審第八回公判廷における被告人田中の供述参照)、鉱山本来の耐用年数を短縮すべき事情とは到底認め難く、右の数値は採用の限りでない。他の数値についてもこれを認めるに足る証拠はない。原判決挙示の関係証拠によると、判示のとおり減価償却額が認められ、論旨は理由がない。

その他所論に鑑み、記録及び原裁判所において取り調べた証拠を精査し、かつ当審における事実取調の結果を併せ検討しても、原判決に所論のような違法があるとは認められない。論旨は理由がない。

第五  弁護人の控訴趣意書第六点(量刑不当)、被告人の控訴趣意書(二)(量刑不当)について。

訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠を精査し、かつ当審における事実取調の結果をも参酌して、先ず、被告会社について検討するに、本件は当時としては相当高額の脱税行為で、その態様も会社ぐるみで逋脱をはかるなど悪質であり、収益の大部分を東京に送金して費消しており、その刑責は軽視できないので、その後しばらくして閉山整理し、現在では被告会社の実体がないこと、本件事業年度の申告法人税は納付済であり、更正法人税についても石炭合理化事業団からの受入金によって充当され得るものであったことなど記録により認められる諸般の事情を考慮しても、被告会社に対する原判決の量刑は相当であって、刑の量定を変更すべき格別の事情は認められない。論旨は理由がない。

次に、被告人田中の情状について検討するに、同被告人は被告会社の代表取締役として同会社の経営、経理事務全般を総括主宰していながら、同会社の法人税を逋脱しようと企て、会計課員らに指示して帳簿の改ざん、所得の秘匿等をなし、もって本件犯行に及んだもので、本件起訴後も長年にわたり犯行を否認して争っていたのであるから、その刑責は重いといわなければならず、原判決が同被告人を懲役四月(一年間の執行猶予)及び罰金一〇〇万円に処したのは十分首肯できる。しかしながら、被告会社の実権はもともと田中彰治が握っていたこと、本件後既に二八年を経ており、被告人はその間被告会社の役員の地位を退いたほか種々の社会的制裁を受け、現在では宅地建物取引主任者の資格を得て細々と宅地建物取引業を営んで生計を立てているところ、懲役刑に処せられると右の資格を失うこと、同被告人は本件に対する謝罪の意思を表明するため原判決後二回にわたって合計二二五万円を日本赤十字社に寄付したこと、その他諸般の情状を考慮すると、現時点では原判決の量刑はいささか重過ぎると考えられ、破棄を免れない。論旨は理由がある。

そこで刑訴法三九六条に則り被告会社の本件控訴を棄却し、同法三九七条二項、三八一条により原判決中被告人田中に関する部分を破棄し、同法四〇〇条但書により自判する。

原判決の認めた事実に原判決摘示の法条を適用し、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人田中を罰金一〇〇万円に処し、同被告人において右罰金を完納することができないときは刑法一八条により金一万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、訴訟費用(差戻前の第一審、第一次控訴審及び差戻後の第一審における分)については刑事訴訟法一八一条一項本文によりその二分の一を同被告人に負担させることとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 徳松厳 裁判官 寺坂博 裁判官 川畑耕平)

○昭和五一年(う)第四〇九号

控訴趣意書

被告人 田中隆博

外一名

右の者に対する法人税法違反被告事件の趣意は下記の通りであります。

昭和五一年一一月五日

右被告人 田中隆博

福岡高等裁判所 御中

目次

(一) 被告人田中隆博は会社の経営、経理、事務、全般を総括主宰していないので事実誤認で有ります。・・・・・・一三三三

(二) 判決の矛盾と量刑については不合理と存じます。・・・・・・一三三六

(三) 被告人田中隆博は犯意はなかった。且本件は時効であるので事実誤認である・・・・・・一三三八

(四) 被告人田中隆博は被告会社の法人税を逋脱しようと企てていないので事実語認であります。・・・・・・一三四〇

(五) 本件被告人の不正とか悪質と云う事は事実誤認であります。・・・・・・一三四一

(六) 本件の張本人と被告人との事実誤認・・・・・・一三四二

(七) 混炭四、三九七屯は全額免税所得であり各坑按分並にカロリー按分は事実誤認であり違法で有ります。・・・・・・一三四六

(八) 復興金融金庫提出書類の内容及判決引用分析成績表は事実誤認であります。・・・・・・一三四九

(九) 三坑は事実新設免税であり、実体を具備しているので否認は事実誤認・・・・・・一三五〇

(十)控訴審判決に添はない。思い付、別件的カロリー按分計算は事実誤認であり、法令適用の誤りが有ります。・・・・・・一三五二

〈1〉 本件控訴審判決の破棄理由は、課税、免税の所得を区分計算する方法である・・・・・・一三五二

〈2〉 差戻後の第一審判決は、控訴審判決の理由に判示された免税所得と課税所得の区分計算方式に従っていない。・・・・・・一三五二

〈3〉 被告人及会社の課税所得金額の計算・・・・・・一三五三

〈4〉 丸吉礦業所の販売屯数と検炭野取屯数の差四、三九七屯について・・・・・・一三五四

〈5〉 原審採用の課税、免税所得区分の計算方法には重大な不合理性があること・・・・・・一三五六

(十一) 本件は歩留に依る損益計算をすると赤字となるので原審判決は事実誤認である・・・・・・一三五七

(十二) 丸吉一坑は赤字であり、黒字であると云うのは、丸吉二坑の利益を一坑に加えるか、非常識人の云う事である。・・・・・・一三五九

(十三) 山吉炭坑への貸倒損金否認は事実誤認であります・・・・・・一三六〇

(十四) 被告人社長田中隆博の個人及家族の生計云々は事実誤認である・・・・・・一三六二

(十五) 本件は長期間に亘り関係者の死亡続出し且関係炭礦部門廃止等々正当なる防衛は出来なくなった・・・・・・一三六五

(十六) 金四三二万一、〇八二円也を交際費の追認願い度き事・・・・・・一三六八

(十七) 昭和二五年度は免税(振興の新坑・丸吉二坑)期間であったのに其の措置がなされない誤りがある・・・・・・一三六八

(十八) 四〇〇万円の否認は事実誤認であります・・・・・・一三六九

(十九) 木材代金一、二三四、九九一円否認は事実誤認であります・・・・・・一三六九

(廿) 礦害賠償経費の否認は事実誤認であります・・・・・・一三七〇

(廿一) 減価償却費不足金否認は事実誤認・・・・・・一三七一

(廿二) 租礦区料の償却不足額否認は事実誤認・・・・・・一三七一

(廿三) 本社費及本社経費は国税局長当初認容全額を経費と認めること、不認は事実誤認・・・・・・一三七二

(廿四) 不合理並に誤認の列挙・・・・・・一三七四

(一) 被告人田中隆博は会社の経営、経理、事務、全般を総括主宰していないので事実誤認で有ります。

〈A〉 判決昭和五一年五月二九日二十裏初『被告会社代表取締役として被告会社の経営、経理、事務全般を総括主宰していたものである』

〈B〉 右同判決中四五丁裏四行『被告会社の実権は被告人田中隆博の父田中彰治が握っていた事』

〈C〉 判決昭和四二年三月二四日三頁末尾『代表取締役として同会社の経営、経理、事務全般を総括主宰していたものである。』

〈D〉 右同判決(昭和四二年分)五七頁三・四行中(法律の適用)の項中『実権を会長たる父に握られ殆んどその意の儘に動いている気配の窺われる事』と機械器具の如きロボットである事を立証している。

〈D〉 判決昭和五一年五月二九日二丁裏〈1〉〈2〉行中『被告人田中隆博は被告人会社設立と同時に取締役となり』とある。

〈F〉 判決昭和四二年三月二四日三頁九、十行中『被告人田中隆博は右被告会社設立と同時に取締役となり』と二回の判決の中に記載されているが、被告人田中隆博は当時取締役になっていた事も知らず、且、知らされず当時は飯塚の振興炭坑の倉庫係であった。

〈G〉 判決昭和四二年三月二四日三頁十、十一行中昭和二四年四月一日以降同年二七年十月二八日まで(代表取締役となっていた意味)

〈H〉 質問てん末書昭和二八年二月一九日故田中彰治問答第六末尾に故田中彰治答中『又今後の事に付いても昭和二七年十一月会社の機構を変更し役員も改選し、今後此の様な迷惑をかけない様にした次第です』と云っているが、故田中彰治の云った通りに被告人田中隆博は解任されている。即ち左記判決記載の様に『判決(四二・三・二四)二七年一〇月二八日まで』代取に就任していたと記載されている。会社の株も一〇〇%支配している故田中彰治は当然会社を総括主宰しているのだから会社役員は口一つでどうにでも出来る立場であった。

斯の如く故田中彰治は、役職を付けられた本人が知ろうが、知るまいが、会社役員は我が子の名付けする如く簡単で被告人田中隆博の様な息子に至っては全く機械器具であり完全なるロボットであった。

〈I〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日被告人田中隆博(六頁より八頁迄(三)被告人田中隆博は総括主宰してなく、ロボットであった)

〈J〉 第十一回準備手続調書昭和三八年五月一三日被告人田中隆博陳述

〈K〉 判決昭和五一年五月二九日二〇丁裏初〈79〉五行目、東京送金五、七三四万円に対しても、会社総括主宰していた。故田中彰治以外は、送金使途を採配した人はいない。且、被告人田中隆博の指示で一円なり共使用されていない事実は今日迄明らかである。

即ち東京本社に関しても故田中彰治が総括主宰していた事が明確であります。

〈L〉 第二回弁論要旨昭和四二年一月二七日故名川保男弁護人結論一丁初行昭和二七年十月八日『被告人にあらずして』本件とは関係もない処の被告人の父『故田中彰治』に耶かでも関係ある処は先づ全国的に一斉査察を受けた……云々』と以上でもわかる様に、故田中彰治が会社を総括主宰していた事を認め査察された現実でも明かであり、被告人田中隆博等は『目』でなかった事も明らかであります。

〈M〉 第一回法人税法違反事件弁論要旨故名川保男弁護人二十丁末行三丁表初行中記載

『本件の全経過についての中』即ち会社総括主宰者故田中彰治に査察の重点があった事実が明らかに立証しています。

〈N〉 上申書昭和四三年七月六日被告人田中隆博七頁(五)被告人の立場はロボットで有り、機械器具の如くであった。七頁〈1〉〈イ〉〈ロ〉〈ハ〉〈2〉〈イ〉〈ロ〉〈ハ〉八頁に渉る八頁〈3〉(イ)〈4〉〈5〉(イ)八頁九頁(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)十一頁(リ)(ヌ)(ル)(オ)

十一頁(ワ)(カ)十二頁(ヨ)(タ)(レ)十三頁〈6〉(イ)(ロ)〈7〉(イ)十四頁(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)十五頁(ト)(チ)〈8〉(イ)〈9〉(イ)(ロ)(ハ)(ニ)記載特に十三頁(レ)の項の会社々員は全員、本社、振興、丸吉坑共女子職員に至る迄採用は田中彰治の許可なく出来なかった。

(O) 控訴趣意書昭和四二年六月五日被告人田中隆博(一頁中(1)振興鉱業開発(株)の実権者の事実誤認〈イ〉より〈ワ〉迄一頁より二頁に渉り記載

〈P〉 上申書昭和四三年七月六日被告人田中隆博十三頁(6)田中房子の権力について(イ)(ロ)中

〈Q〉 控訴趣意書昭和四二年六月五日被告人田中隆博(五頁(5)質問てん末書昭和二八年六月二日田中房子(イ)(ロ)(ハ)中記載

〈R〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日被告人田中隆博一三頁一四頁(五)田中房子の権力について追加

丸吉炭坑では、金銭、銀行、渉外、経営の実権を全部握っていて被告人は、経理書類、伝票等一切タッチ出来なかったし、又、していない。田中房子以外介入は出来なかった。

〈S〉 上申書昭和四三年七月六日被告人田中隆博(一五頁〈8〉飯塚の振興炭坑の出納は林すづ(故田中彰治の愛人)である。

〈T〉 第二回質問てん末書昭和二八年五月一五日福島太郎供述

問〈7〉 昭和二五年同二六年度に於ける、各帳簿の担当を申述べて下さい。

答 『昭和二六年度、金銭出納係は(金庫番)杯すづとなって居りますが』林すづは故田中彰治の愛人で本妻田中房子より長い夫婦生活を続けている人で、飯塚の振興炭坑の資金や金銭の出納を握り故田中彰治直属で管理、支配していた。被告人田中隆博はその配下にあって動いて居た。又飯塚の本宅と呼び故田中彰治が帰坑の時は炭坑の礦所内に林すづとの居宅を有していた。

〈U〉 第七回公判昭和四三年五月七日河野正直供述

問〈81〉―〈86〉中記載 問〈81〉…実際の実権者は誰だったんですか。

答 会長田中彰治であったと思います。

問〈83〉 それはどういう事で実権があると云うんですか。

答 人事の移動とか、金の問題、事業計画等殆んど会長の命令通りに動いていた。

答〈84〉 河野正直も会長の命令で秘書になった。

答〈85〉 課長、係長級はほとんど(会長の権限の意)

答〈86〉 任命権は会長田中彰治にあった事

以上の供述を以っても明らかな如く被告人は社長と名のついたロボットであった。

〈V〉 尚社長は本社に居るのが常道であり、本社が有り乍ら常に現場に居ると云う事態がおかしいと思いませんか。例えば最高裁判所長官が長官室で執務するのが建前で常道で有ります。処が長官が常に福岡地裁で執務していたら、人は長官が格下げされて一裁判官になったと思うし、実際の長官の仕事が出来ないでしょう。こんな滑稽な事を相像したことがあるでしょうか、それが現実に本件がその通りで社長が会長の本妻や愛人の配下で然も作業現場の坑内、坑外で微粉炭に塗れ体に汗して働いているのだから被告人田中隆博は故田中彰治の機械器具であり、ロボットであることが立証される。

以上の如く被告人田中隆博は会社の経営、経理、事務全般を総括主宰してなく故田中彰治がしていたものであります。

(二) 判決の矛盾と量刑について不合理と存じます。

〈A〉 判決昭和五一年五月二九日二丁裏初『被告会社代表取締役として被害会社の経営、経理事務全般を総括主宰していたものである』と判示され同判決四五丁裏『被告会社の実権は被告人田中隆博の父、田中彰治が握っていた事』とあります。

〈B〉 判決昭和四二年三月二四日三頁末尾『代表取締役として同会社の経営、経理、事務全般を総括主宰していたものである』としています。同判決五七頁(法律の適用)の項に『実権を会長たる父に握られ、殆んどその意の儘に動いている気配の窺われる事』とあります。

〈C〉 右の通り二回の判決に『被告人は会社の全般を総括主宰していた』と云っていて末尾には『実際は父たる田中彰治がしていた。即ち被告人は機械器具の如く、且ロボットであったんだ』と云う意の判示がなされている。

〈D〉 刑事事件は『真実の究明』だと聞かされていますが、本件の判決は二回とも真実は故田中彰治がやったんだとの判示と解されます。

処が真実に罪状を行った者は検察官の供述書もなく、公判調書もなく且『無罪』で女事務員一人採用出来ない。完全ロボットの被告人は懲役の外に罰金併科と云う重罪。然も査察以来二四年間、裁判と云う拘束の苦痛を負わされ即ち生れて現在迄の約半数は裁判で被告人と云う汚名と拘束が続き、素人で良くわかりませんが『憲法に依る』平等の権利を失い、片や衆議院議員、片や炭坑の現場係とで、片や『無罪』片や『重罪』で『差別待遇』を受けている気が致します。

〈E〉 又税金課税の税法の原則も『実体課税』であると云われます。例えAの名儀の家屋でも実際はBの家屋である場合、税金はBに課する事になっている様です。此の原則も被告人でなく故田中彰治に課すべきではないでしょうか。

〈F〉 以上の如く『真実』と『実体』の点で判決に判事している以上『真実者への刑罪』と『真実者への実体課税』を長い裁判期間等に拘泥せず行うべきであると信じます。以上事実誤認で有ます。

(三) 被告人田中隆博は犯意はなかった。且本件は時効であるので事実誤認である。

〈A〉 控訴趣意書昭和四二年六月六日故名川保男弁護人(第一点法令適用の誤り二頁より六頁)

〈B〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日被告人田中隆博(右の中(七)申告所得額より起訴した所得が少い矛盾の説明一七頁より二二頁迄)

左の如く被告人会社の免税控除前所得は原審判決別表第三(六三)並別表第七(七九頁)の公表欄より

振興鉱業所 一億〇、九六二万〇、四三一円〇八銭

丸吉鉱業所 二、四六四万八、四〇三円七七銭

合 計 一億三、四二六万八、八三四円八五銭 であって

原審判決の免税所得控除前所得(前掲)

一億二、四二五万九、九三三円七七銭

よりも一、〇〇〇万八、九〇一円〇八銭多い、即ち一千万円多く申告しているのだから免税所得控除前所得の段階で起訴した金額より被告人の所得の方が一、〇〇〇万円多く申告しているので逋脱の故意を認定することは出来ない。

〈C〉 訴因変更について……他人の土地を勝手に専有しても十年間双方何等異議のない時は専存していた人の土地となる法律があると聞きます。それなのに本件は起訴するまで三年間も専門家が何十人もかかって調査し、且福岡国税局長の認定を得、国税本庁の認可も得て決定した本社費八八一万一〇八〇円及本社経費一、四二八万円三、一一五円、計二、三〇九万四、一九五円也を本件起訴の事件実務責任者故下坂卯一氏が死亡して当時の事については補助的に手伝った者は居っても、故下坂氏が責任者で一切取り仕切って居った為、故下坂氏に勝る者はいない今日、最も重大なのは素人でなく、専門の裁判所の法廷に於て何等異議なく一六年も経過した後に、故下坂氏の調査認定された従来の書類に依っただけで、別に新たな証拠もないのに起因の変更をする事は被告人田中隆博を違法に依り著しく不利益に陥し入れるもので、且一旦きめた事を変更する等『一事不再理』の点からも違法であり、又被告人の『既得権』を侵す事にもなり、被告人は納得出来ない。尚死亡した下坂氏の公判調書は証拠として取消す事が出来ないのに、それを無視して本社費及本社経費を削減して訴因の変更する事は全く右の通り違法であります。

〈D〉 歩留を実行する事、尚屯数のみの按分は不可である旨申合せを最初担当された寺下検事、及弁護士、被告人田中隆博と合計八人位打ち合せをして合意された。それが口上書となって故名川保男弁護人より提出された所以であります。拠がそれが実行されて赤字が出て訟訴の維持が危まれるや、権力者の違法の術を使って訴因変更する事は許されぬ事で有ります。従って本社費及本社経費全額を認容願い度き事。

〈E〉 次に本件は脱税とか逋脱とか云われていますが、被告人田中隆博は正当に国税官より行政指導を受け、実状を説明し、申告し、図面等を出して検閲して貰って新設免税の妥当性を認めて貰い、その指示に依り申告をした。本件が此の妥当性が後日東京国税庁本庁並に福岡国税局の現地実地調査団に依り新坑免税の妥当性が更に確認決定された。

〈F〉 被告人に犯意はない。

本件の行政指導された国税官が、新設免税でないのに新設免税と不当に認定して罪に問われたら、当然被告人田中隆博は犯意ありとなるかも知れないが、国税官の行政指導で認定した通り本庁及福岡国税局で新設免税を決定したのだから、被告人田中隆博には犯意はなく、故田中彰治より強力に指示された通り被告人は誠心誠意新設免税の説明、且申告をしたものであって、国税官の処置が正当であり、国税官が本件の事で罪状を問われぬ以上、被告人も罪のない事は同様であります。

以上に依って明らかな如く、被告人田中隆博に犯意がなかった事が明確で有ります。

〈G〉 右の如く本件は新設免税が認定され、行政指導が正しかった。その指示に依る申告書は犯意のない事が判明致します。従って税務申告がなされた時は三年間を以って時効とする税法に付昭和二六年度は時効であります。即ち最初は国税官が新設免税と断定して納税を指導指示したが査察となった為、悪意の申告と見做されたが国税官の断定通り此処に明確に新設免税が決定された以上、悪意の申告ではなく、正常な申告書となったので、時効期間は五年でなく三年間であります。

(四) 被告人田中隆博は被告会社の法人税を逋脱しようと企てていないので事実誤認であります。

〈A〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日被告人田中隆博右三頁、四頁中『(二)被告人は国税局にだまされた』の記載中、島添義平質問てん末書(イ)(ロ)中記載、被告人田中隆博は国税局員来礦の時図面等を提示して新坑免税の申告をなしている。

〈B〉 控訴趣意書昭和四二年六月五日被告人田中隆博

三頁(3)被告人田中隆博は免税の指示をして居て脱税の意志はなかった。(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)中記載、会計職員にも再三に渉り免税手続をする様指示している。

〈C〉 公判調書昭和三四年五月一九日柳浦隆三証言〈62〉より119迄

柳浦隆三証言に東京本社よりの免税書類を昭和二四年八月頃提出した。

〈D〉 福岡国税局協議団提出審査請求書昭和三〇年一一月三日

振興鉱業開発(株)証拠書類(其ノ四)(四)昭和二六年度法人税申告について(新坑免税について税務署の行政指導を受け、それに従った。)

〈E〉 故田中彰治は新設免税を強く確信して被告人田中隆博に強烈に税務署に申告する様、指示されたので被告人田中隆博は担当国税局員に申告説明した。

〈F〉 右の主張の効あり、税務担当官は事実上の新坑開発の現況を認め『免税手続が面倒だから税金面で免税に該当する様考慮する』と決定された結果を申告したもので有ります。

〈G〉 処が本件の新設免税が真実か、否やを国税庁本庁より調査団が福岡国税局員も随行し炭坑に来て、坑外及坑内に入坑して詳細に実地調査した結果、被告人が主張し続けた『新設免税』である事が更に確定されたわけです。従って被告人の新設免税の主張も、税務担当官の行政指導の判断も間違っていなかったわけです。そうすると、本件ほ『此の行政指導の判断が事件の鍵であった』わけです。

〈H〉 『若し新設免税が否認されたら被告人は勿論、行政指導された税務担当官も事件が成立したかも知れぬ。然し被告人は其の時であっても新設免税を確信の上善意に主張しているのだから犯意にはならない』

〈I〉 処が本件は『新設免税坑』に決定されたのだから本件の『事件の鍵』は解決されたわけです。即ち『被告人田中隆博には逋脱の犯意はなかった』ことになったわけです。

〈J〉 例え新設免税が認容された結果、税額に過少が存ったとしても、其れは税務担当官(国税局)の認定見込違いであり、被告人の責任や逋脱の犯意にはならない。従って被告人は逋脱の犯意はなかった。

(五) 本件の被告人の不正とか悪質と云う事は事実誤認であります。

〈A〉 本件で被告人田中隆博が不正とか悪質と云われている事は、税務担当官が『新設免税を断定した行政指導』が本件をなしている以上、国税庁本庁で本件が『新設免税』と『確定』された今日、此の表現は誤りであります。

〈B〉 税務担当官の行政指導が本庁の調査に依り『正しかった』そして且『被告人の新設免税の主張も正しかった』事が証明されたわけです。

〈C〉 本件は税務担当官の行政指導に依ったものであるから、被告人を『悪質だ、不正だ』と云う事は税務担当官が新設免税確定前までは『悪質であり、不正である』と云われねばならなかったかも知れません。逋脱の犯意もなく、権力もない全く受け身の被告人納税者が、行政指導を受けた事が悪質や不正である筈がない。然も本件が新設免税と確定された以上、税務担当官の判断処理が正しかった事が立証され、被告人の新設免税の主張も正しかった結果となった訳ですから、被告人の不正とか悪質とかは無かった事に成ります。

(六) 本件の張本人と被告人との事実誤認

〈A〉 証拠調の結果に対する弁護人の意見昭和四三年七月一五日故名川保男弁護人

(二四頁以降第三事実誤認又は法令違反本件の被告人は田中隆博でない二四頁より三一頁まで)

〈B〉 第二回弁論要旨昭和四二年一月二七日故名川保男弁護人

結論一頁より七頁迄。

〈C〉 上申書は高裁提出昭和四三年七月六日被告人田中隆博

(五一頁(三)被告人田中隆博は職員並の給料で特別の利益は得ていない。七頁より一五頁(五)被告人の立場はロボットであり、機械器具の如くであった。)

一七頁(七)被告人田中隆博は秘匿してはいない。

〈D〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日被告人田中隆博

(六、七頁(三)被告人田中隆博は総括主宰してなくロボットであった。)

(八頁より一二頁(四)本件張本人、故田中彰治は検察官の供述書もなく、公判の供述書もなく昭和五〇年一一月二八日死亡した。)

(一三頁(五)田中房子の権力についての追加)

(四三より四五頁(十六)社長田中隆博の家族の生計費云々は取消して貰い度き事)

〈E〉 判決昭和四二年三月二四日五七頁三行目『実権を会長たる父に握られ、殆んどその云う儘に動いている気配が窺われること』

〈F〉 判決昭和五一年五月二九日四五丁裏四行五行中、被告会社の実権は被告人田中隆博の父故田中彰治が握っています』

〈G〉 被告人田中隆博第十一回準備手続調書昭和三八年五月一三日

〈H〉 事件発生以来二五年起訴以来二十一年の間本件の総括主宰者故田中彰治は検察官の供述書もなく、且公判供述書もなく、昭和五〇年一一月二八日死亡した。此の時本人にかかわる刑事事件は『訟訴棄却』となり、令書を霊前に捧げ黄泉に送った次第です。

〈I〉 本件も故田中彰治にかかわる刑事事件であって、故田中彰治の会社を故田中彰治が総括主宰する事に誰一人として異議のない当然の事で、その張本人が死亡すれば刑事事件の『真実の究明』の原則からして本件は『消滅し、訴訟棄却となります』

〈J〉 本件の驚く事は、故田中彰治の会社で(株一〇〇%支配)故田中彰治が会社総括主宰している張本人でである事を認め乍ら事件発生の調査も故田中彰治関係を全国百数ケ所も調べ、張本人の故田中彰治の実体を起訴せず、検察官の供述の調書もなく、公判調書もないと云う世にも不思議な事件が生じているわけです。刑事事件の『真実の究明』からもはずれ、税法の『実体課税の原則』からもはずれた、世にも恐しい裁判と云わねばなりません。

〈K〉 故に東京本社も故田中彰治が総括主宰し、又東京送金の使途も故田中彰治の命令のない金は一円なりと動かす事が出来なかった事実。

〈L〉 又九州の炭坑も故田中彰治が総括主宰していた。特に金銭に於ては丸吉炭坑に於いては本妻田中房子を置き、金銭出納、銀行渉外等故田中彰治の代理として君臨していた。

〈M〉 振興炭坑も故田中彰治が総括主宰し、且愛人林すゞを置き金銭出納一切を行ない、故田中彰治の代理として留守中炭坑の監視役をしていた。

〈N〉 被告人田中隆博は、本妻、愛人の下で一使用人として使い走りをして居て、金銭的には一円の自由もきかなかった。

尚、被告人田中隆博は一般職員並の給料より貰っていなかった(証拠提出済)。又本件に依る利得も得ていない。

〈O〉 第七回公判昭和四三年五月七日河野正直証言

〈81〉〈82〉〈83〉〈84〉〈85〉〈86〉記載〈81〉実権者は故田中彰治である事。〈83〉人事移動、金の問題、事業計画も殆んど会長(故田中彰治)命令である事。

〈84〉秘書も会長命令人事であった事、〈85〉課長・係長級も会長人事の旨。此の外一般事務の女子事務員に至る迄会長の許可なく採用は出来なかった。

以上の如く会社の人事、事業計画、資金、全般の総括主宰に依る指揮命令、それに依る財力、社会的地位の確立等本件の利得を故田中彰治が一身に亨受していた事実。

〈P〉 それに引替え、被告人田中隆博は脱税と云う不名誉と裁判に依る精神的苦痛と就職が出来ず、裁判に要する時間の消費、経済問題、人生が既に五十五才の停年の末期に達すると云う、人生取返しのつかない最大の損害はあったが利得はなかった。そして被告人田中隆博は名ばかりのロボットで機械器具で本件の真実の総括主宰者、経営者は故田中彰治であった。

〈Q〉 証拠調の結果に対する弁護人の意見昭和四三年七月一五日(故名川保男弁護人提出二四頁より三一頁中中の第三)

事実誤認又は法令違反の中で『被告人田中隆博は単なる名義人で当該収益を亨受せず』と云っている通りであり、本件の何処を調べても本件の張本人は故田中彰治であり、被告人田中隆博でない事の誤認があります。

〈R〉 張本人と被告人の比較の一欄

故田中彰治 田中隆博

総括主宰 していた していない

人事権 一切の実権を持っていた なかった

事業計画 一切していた していない

株の所有 一〇〇%支配 なし

利得 一身に亨受していた していない

資金 独裁運用 動かす権利なし

出納 本社 田中彰治 口出し出来ない

同 丸吉 田中彰治妻田中房子 口出し出来ない

同 振興 田中彰治愛人すゞ 口出し出来ない

社会的地位 衆議院議員等として亨受していた していない

財力 あった なし

月収 膨大(自由自在) 一般職員並給料で外に利得なし

以上の如く本件に於ける被告人田中隆博の行為なりと検察官及原審判決の主張している事が全部故田中彰治の行為である事が明白であります。此処に事実の誤認があります。

(七) 混炭四、三九七屯は全額免税所得であり、各坑按分並にカロリー按分は事実誤認であり、違法で有ります。

〈A〉 控訴審判決昭和四三年八月二七日六丁表末尾より裏七行まで

検炭野取の段階に於ける出炭量総計二八、七一八屯との差額四、三九七屯の混入された、ほた等を良質の石炭と同様に課税の対象としたのであって、其の事自体著しく合理性を欠くものと云うべく、しかも主に第二坑からの産出炭に混入して売炭された、右ほた等を検炭野取の段階に於ける産出量の比率で各坑に按分した事になるから、免税坑たる第二坑からの所得を実際よりも過少に算出し、課税坑たる第一坑と第三坑からの所得をその分だけ過大に算出する結果となる事が明らかである』と明確に判示しているにも不拘ず、上級裁判所の判示を完全に無視した原審判決は事実誤認であり、違法で有ります。

〈B〉 証拠の結果に対する弁護人の意見昭和四三年七月一五日

(故名川保男弁護人二〇頁~二四頁〈1〉〈2〉〈3〉及四一頁中第二事実誤認、丸吉礦業所の販売及び検炭野取屯数の差額、四、三九七屯は丸吉二坑の混炭で免税である)

〈C〉 控訴趣意書昭和四二年六月六日故名川保男弁護人

(四五頁より五四頁中迄四、三九七屯×五、六六五円=二、四九〇万九、〇〇五円也は全額免税所得である。)

〈D〉 弁論要旨昭和三九年一二月八日徳永竹夫弁護人

(第二、4にあり、混炭四、〇二三屯は免税である。取扱通達(26)附随した業務)

〈E〉 控訴趣意書昭和四二年六月三日徳永弁護人

(第四の(六)混炭は四、〇二三屯で免税所得である。)

〈F〉 陳述書昭和四九年六月一七日徳永竹夫弁護人

(混炭四、〇二三屯は免税である。)

〈G〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日(九)混炭四、三九七屯(原審判決)四、〇二三屯(弁護人)…について被告人田中隆博

〈H〉 上申書高裁(昭和四三年七月六日)被告人田中隆博

(の内(八)混炭数量四、三九七屯に関する硬混入率及混炭の事実追加について)(十八、一九頁中)

〈I〉 被告人田中隆博の最終陳述昭和四二年一月二七日(13)32・33頁中、カロリー及混炭の事実

〈J〉 控訴趣意書昭和四二年六月五日被告人田中隆博

(の中十二、十三頁中混炭四、三九七屯は免税であり此の石炭を按分する事は二重の事実誤認である)

〈K〉 三七回公判昭和三九年三月三日三浦伊佐美証言

(十二頁末尾及十三、十四、十五頁二行まで田川四尺層のカロリー七、〇〇〇カロリー位まである。又混炭の事実の証言(丸吉二坑)

〈L〉 三五回公判昭和三九年二月二一日小山内弘証言

(二九頁、十、十一、十二、十三行中、混炭をしていた事実)

〈M〉 第六回公判昭和四九年一月二五日河野正直証言

混炭出来る高カロリー炭の証明

(〈21〉生で七、二〇〇-七、五〇〇カロリーある(丸吉二坑169七、二〇〇-七、五〇〇カロリー(丸吉二坑)

〈N〉 第七回公判昭和四三年五月七日河野正直証言

二坑炭ポケットは、専用独立していた。

(119その貯炭場も別ですか』『はい』120一、二、三坑とも―』『はい』123124二坑専用貯炭ポケットが設置されていた。

〈O〉 第五回公判昭和四八年九月一八日石井重信証言

丸吉二坑四尺層は七、〇〇〇より七、五〇〇の高カロリーであった事実

(〈26〉七、二〇〇カロリー〈27〉田川地区代表炭である〈28〉〈29〉〈34〉〈36〉七、二〇〇カロリー

(〈62〉七、二〇〇カロリーでも良い。〈69〉七、〇〇〇-七、二〇〇カロリー115より120七、四〇〇ある

(七、四〇〇~七、五〇〇出る時もある)

〈P〉 第六回公判昭和四九年一月二五日川原紀明証言

(丸吉四尺七、〇〇〇~七、五〇〇カロリーあった)

〈Q〉 丸吉二坑の混炭は免税であり、高カロリーである事を上級裁判所が判示された。

〈イ〉 四、三九七屯(判決)は丸吉二坑の四尺炭の混炭である事

〈ロ〉 丸吉二坑の石炭のみを入れる専用ポケットがあった事実

〈ハ〉 混炭していた事実

〈ニ〉 丸吉二坑は混炭するに適した七、〇〇〇から七、五〇〇カロリーの高カロリー石炭であった事

〈ホ〉 丸吉二坑の免税坑は附随業務で取扱通達(二六)に依り免税である事

〈ヘ〉 高訴審の上級裁判所で免税であると判示している事

右の通り混炭の事実と免税であることが明確で有ります。

(八) 復興金融金庫提出書類の内容及判決引用分析成績表は事実誤認であります

〈A〉 最終陳述昭和五一年三月一七日被告人田中隆博中(十九)の開銀とあるは『復興金融金庫』の誤りに付訂正致します。

右陳述書にある通り、政府が終戦後日本復興の為基本産業である石炭の増産に米進駐軍が炭坑に割当屯数を定め、その目標を割ると『GHQに呼出されて』喧しく云われる時代で、其の為に炭住も建てよ、米の特別配給、衣類、酒、等々炭坑の石炭増産には政府も有る手を尽したが、当時の炭坑は赤字が多く、特に中小炭坑の倒産が多く出た為、炭住資金、赤字融資資金等が政府より出された。借りた炭坑は返せるめどはなかったが、政府が復金窓口で出す以上、一応の返済予定のある書類提出が条件であったので、型式上カロリー、資金返済計画、埋蔵量、増産計画等が事実の数字より遙かに有利に、巨大に作文され貸金が容易に返済出来る様に提出された。銀行に出す書類は現在でも同じであります。

此の様な書類の数字、数額、状況を以って、裁判の判定資料にする事は甚しく事実と違う事は火を見るより明らかであります。

〈B〉 次に判決昭和五一年五月二九日二六丁裏一、〈91〉押収してある分析成績表綴一綴(前同号六三)とあるも甚しく事実と違うもので、従来再三に渉り申し述べているが起訴以来二十一年変わらない。此の資料は水洗機を掃除した後、水洗機の石炭層の形成、水量、風圧の調節をして、始めて石炭の水洗が出来るのですが、その石炭層を作る迄が水洗技術の見せ処で、その時目で見て、大体良かろうと思った時に試験資料を取り、後日の研究にするのです。その試験資料はカロリー不安定、且未知数なものであり、此の資料を以って裁判の判定にする事は甚だ危険であり、且被告人を著しく不利益にするものであり、事実を誤認するものであります。

(九) 三坑は事実新設免税であり、実体を具備しているので否認は事実誤認

〈A〉 判決昭和四二年三月二四日六頁末尾より七頁三行迄

第三坑は弁護人主張の如く、起業中の段階にある事は認め得るけれども、同所からの出炭に依る収益も又被告会社の所得を構成している事は明らかであるので、此が法人税法上の免税所得である事が『立証』されていない以上、課税の対照と成る事は当然である。

〈B〉 判決昭和四二年三月二四日一九頁七行八行中出炭一四一屯 一九頁末尾第三坑一六三屯(按分すると)

〈C〉 判決昭和五一年五月二九日四丁裏末尾、五丁裏三行まで

第三坑については同坑からの出炭に依る収益も又被告会社の所得を構成している事が明らかであるので、此が法人税法上の免税所得である事が『立証』されていない。本件に於ては課税の対象になると云わざるを得ない。

〈D〉 判決昭和五一年五月二九日二六丁表〈90〉末尾

第三坑一四一屯 二七丁表六行

〈E〉 上申書昭和四三年七月六日被告人田中隆博

((六)丸吉三坑の出炭について十五、十六、十七日)新設免税である。

〈F〉 第三〇回公判昭和三五年九月二七日木村金二証言

昭和二六年十月初頃開設。十一月末-十二月初着炭

〈G〉 第三一回公判昭和三五年十月一五日川原紀明証言

昭和二六年十月着手 十二月着炭

〈H〉 第一三回陳述書昭和三七年七月二四日弁護人提出 十二頁(ハ)

三三七、六函×〇、六五=二一九屯

〈I〉 第一五回陳述書昭和三七年九月二〇日弁護人提出

(一九頁表(二)起業炭の処理)新設である。

〈J〉 第一七回陳述書昭和三八年六月二七日弁護人提出

三坑坑内労務費 三六二、四三二、九五銭

同 按分加入 三七一、四三一、三八銭

坑外夫賃金 一八九、四八六、九〇銭

〃 雑給 一五四、七〇一円

右計 三四四、一八七、九〇銭

◎ 合計 七一五、六一九、二八銭

〈K〉 第二十回陳述書昭和四一年十月七日弁護人提出

◎ 二一九屯×四、八〇〇円=一、〇五一、二五〇円

◎+◎=合計 一、七六六、八六九円二八銭

〈L〉 『免税期間は設備を増設した事業年度及その翌年度開始の目より三年以内に終了する事業年度間である』

〈M〉 丸吉三坑は二回に渉る原審判決の判示中にある新設免税所得である事が右の税法の条項に於ても新設免税の実体を具備している事が明確に『立証』されます。

〈N〉 二回の原審判決に於ける丸吉三坑の出炭は、一四一屯又は一六一屯と判示しているが、右の様に第十三、十五、十七、二〇回の弁護人の陳述書の通り二一九屯が正しい。

〈O〉 前記 ◎+◎ の如く一、七六六、八六九円二八銭は免税所得であり、丸吉一、二坑所得より差し引くべきです。尚その外に設備の償却も加えるべきです。

(十) 控訴審判決に添わない。思い付、別件的カロリー按分計算は事実誤認であり、法令適用の誤りがあります。

〈1〉 本件控訴審判決の破棄理由は課税、免税の所得を区分計算する方法である。

〈A〉 両者の何れに属するか明瞭なる損金、益金はそれぞれの専属区分による。

〈B〉 両者に共通するものについて、その性質内容により見積り区分が可能でないものについては、大体において正確な出炭屯数の比率により按分するもやむを得ない。

〈C〉 両者に共通でないが、合算されているものについては、各独立経営との考え方を基本とし、その具体的な按分計算としては

〈D〉 販売屯数により按分するを可とするもの。

〈E〉 出炭屯数により按分するを可とするもの。

〈F〉 出炭函数、従業員数、使用電力料、採炭能率、支払賃金、の割合によるもの、などによるべきである所、原審判決はその全部を出炭屯数により按分し、之の為免税坑の所得を過少に算し、又丸吉鉱業所の四、三九七屯の混炭分を課税所得と認定したため、改正前の法人税法第六条第三十一条の四、第二項及第四八条第一項の解釈運用を誤り、事実誤認の過誤を犯したと判示されたのであります。

〈2〉 差戻後の第一審判決は、控訴審判決の理由に判示された免税所得と課税所得の区分計算方式に従っていない。

〈A〉 差戻しの第一審判決では……

振興鉱業所及丸吉鉱業所ごとに、その各損益の項目につき、それが課税坑分に属するか免税坑分に属するか明瞭なものはその専属区分によって、算定し、課税坑分と免税坑分に共通するか、合算されているものは、その性質内容に従い、出来る限り客観的事実に近い比率で、推定区分して算出する同6丁表としながら犯則所得認定の他の具体的計算では按分の根基は『販売収入総発熱量(カロリー)による按分』

減価償却、振興分の五、三五一、一三六円のうち六七四、六四六円の部分につき『専属区分』

丸吉の物品費及労務費の一部につき専属区分により、その他の全勘定は出炭屯数。出炭屯数又は二六年四月及び二七年三月の出炭屯数によって按分しているのであって、控訴審において差し戻し『判決の理由となった』

『課税、免税区分の不合理性に対しては、何等の是正が行なわれていない』

〈3〉 被告人及会社の課税所得金額の計算

〈A〉 本件公判の全経過を通じ計算関係の主張事項を要約すれば左記の通りであり、別紙第一、第二のとおりである。

〈省略〉

〈B〉 本控訴趣意書の主張所得金額は上表のとおり『欠損』『四四、八二七、七四〇円六二銭』であるから逋脱税額はない。

〈C〉 主張所得の計算上重要な点を以下列挙する

〈D〉 販売収入の課税、免税の区分は原審に於て、突如検察官が主張して来た、カロリーのみに依る按分を原審判決で全面採用しているのは『控訴審判決の内容になし』且理論上著しい不合理があること

〈4〉 丸吉鉱業所の販売屯数と検炭野取屯数の差四、三九七屯について

〈A〉 控訴審判決によれば=丸吉鉱業所の総産出数三三、一一五屯、検炭野取屯数二八、七一八屯との差四、三九七屯を課税対象としたことは、其の事自体著しく合理性に欠けるものとして、判示されて居るに拘らず、差し戻し後の第一審において之の点は『全く無視されている』

〈B〉 本項については、昭和四二年六月六日提出の控訴趣意書

(故名川保男弁護人提出)四五頁より五一頁に於て詳論する処であるが、控訴審判決で著しく不合理であると指摘され、この事実誤認が判決に影響を及ぼす事が明らかである事を計算上重ねて指摘する。

〈C〉 前記四、三九三屯は検炭野取屯数より販売屯数が四、三九七屯多いと云う事である。差し戻し後の原審では、控訴審判決の指摘に拘らず全く無視したのは販売金額の中に四、三九七屯が含まれ、カロリーで按分されているから問題はないとしているものと考えられる。

〈D〉 之の按分では、控訴審判決で指摘された誤りを、再び犯しているのであるが、原審判決では『元の過ちに全く気付いていない』丸吉の出炭は、あくまでも二八、七一八屯であり、販売屯数は三三、一一五屯であるからその差四、三九七屯はその発生原因によって課税免税の区分を明らかにしなければならないのであって、総販売金額をカロリーで按分することによって、解明できないものではないのである。右四、三九七屯は『売価』二四、九〇九、〇〇五円(前記控訴趣意書五一頁)に相当し、控訴審判決理由(六丁裏)から判断すれば四、三九七屯は免税所得となるべきものである事が明らかである。

〈E〉 それは丸吉二坑が七、〇〇〇~七、五〇〇カロリーの石炭に黒色ボタを混入し、五、〇〇〇カロリー程度にして混炭していたものであり、丸吉一坑では三、八〇〇~四、五〇〇カロリーのものであったからボタを混入する余地がないことから極めて明瞭である。

〈F〉 そして免税坑のボタ混炭販売は免税である事

〈G〉 当時施行の行政通達に照し何等の疑を容れないところである。

〈H〉 このボタ混入認定の誤りの金額上の影響、前記『売価』二四、九〇九、〇〇五円を考えると原審が本件の犯則所得として認定した。二〇、三九〇、〇〇五円を遙かに上廻る額となるものであるから、之の点のみを以ってしても本件に逋脱のなかった事は誠に明瞭である。

((引用カロリーの点は昭和四七年三月二一日徳永、名川弁護人提出反論書八丁表の表を引用した)

〈I〉 主張所得では振興鉱業所分は差し戻し前の第一審以来一貫して主張している歩溜り後の屯数により、丸吉鉱業所分は控訴審判決理由により著しく不合理であると指摘せられた混炭四、三九七屯を免税坑分として計算した。

〈J〉 差し戻し前の第一審以来一貫して主張している損失として、山吉の貸倒及鉱害賠償未払金を計算上算じ(その他の小額の損金の主張は本控訴審において行なう事とする)別紙の通り犯則所得を計算した。

〈K〉 石炭原価の計算上課税、免税の区分計算は、原審は控訴審判決の理由に従って計算されていない上に、各所に著しい不合理のある事、以下の諸項において指摘の通りであるが、本件起訴後二十数年を閲し、控訴審判決理由に従って按分計算を行なう基礎資料が入手できない事、当時の事情に精通している経理実務担当者の協力を得られない事などからやむを得ず原審判決を用いた。

しかし以下指摘の様に按分は不合理で、被告人及会社に不当に不利な按分の計算がふくまれているものである事、控訴審判決のとおりである。

〈5〉 原審採用の課税、免税所得区分の計算方法には重大な不合理性があること。

〈A〉 販売収入をカロリー(総発熱量)により按分していること。原案が販売収入按分の基礎としたカロリー復金融資申請資料に基づくものである。

此の申請は当然借入後の返済が有利に行なわれる様に実際のカロリーとは一致せず判然としないもので、課税、免税各坑の検炭野取後歩溜り差引後の販売屯数による按分が課税資料として最も確実なものである。

〈B〉 控訴審に於て歩溜に依る屯数計算せよと判示されたのに

本件発生後二五年後に『カロリー』による按分計算を『突如』として主張した検察官の論告及之を採用判決した原審の判示態度は『政令二途に出る』行為でないでしょうか。上級裁判所の判示に従わず『突如別件』の如く主張することは同じ役所で二つの行き方をする全く違法と云うのか、奇快と云うのか被告人及会社としては何故に『突如』この様な主張がなされたか、とうてい理解出来ない。又差し戻し前の第一審において、カロリーによる按分計算の主張を行なう事が出来なかった理由も、被告人及会社の納得する処でない。

〈C〉 丸吉鉱業所の貸倒損金三八、八三九、五七三円

後記計算に用いた金額(他の数額は別に述べる事とする)

〈D〉 控訴趣意書昭和四二年六月六日故名川弁護人提出七二頁~七三まで

〈E〉 鉱害引当金(後記計算に用いた)

〈F〉 証拠調の結果に対する弁護人の意見昭和四三年七月一五日故名川弁護人)

(第六鉱害賠償金についての補充について四七頁より五一頁まで)

〈G〉 最終陳述昭和五一年三月一七日被告人田中隆博

((六)礦害賠償を経費として認容され度き事)一四頁~一六頁中

〈H〉 別紙両鉱損益計算書添付致します。

前記〈イ〉〈ロ〉の数額を加えたものであります。

(十一) 本件は歩溜に依る損益計算をすると赤字となるので原審判決は事実誤認である

〈A〉 弁論要旨昭和五一年三月一七日徳永竹夫弁護人提出

昭和五一年二月一八日論告中の経費を引用して、弁護人の歩溜屯数を用い計算したもの右論告別表(一)八頁(二)九頁記載

振興課税坑の損益計算書

差引利益 七、三三一、四七三、四四銭

丸吉課税坑の損益計算書

差引赤字 二〇、一七二、二一七、四四銭

右の如く控訴審判決差し戻し(昭和四三年八月二七日)の如く、歩溜を正確に事実に基づき計算すると赤字となる。

〈B〉 控訴審差し戻し判決(六丁表末尾より六丁裏七行まで)

には函数に依る歩溜、屯数を明確にする様指摘。特に四、三九七屯の混入炭は二坑からの産出炭に混入したものであるから、免税である。此の石炭を課税対象としたので、著しく合理性を欠くと判示しています。

差し戻し控訴審(五丁裏全頁には、特に『炭質、炭丈、ボタの挾み等、可採炭量、歩溜率、カロリー、採掘条件、採炭能率、従業員数、設備機械の配置、差異が明瞭だから、只屯数による按分は不可であると判事している。

〈C〉 尚課税坑より免税坑がカロリー条件が良いから按分すると、免税坑の所得を過少し、課税坑の所得を過大にすると判示している。

〈D〉 按分は両者の殆んど総ての条件が実質的差異のない場合においてのみ認容される(差戻控訴審五丁表末尾記載)としているが、原審判決の如く全く相反する様な条件のものを按分しているのを強く差戻控訴審は不可である事を指摘している。にも拘らず、原審の判決(昭五一年五、二九日)は上級裁判所の判決に従わず、此を行なって居る。

〈E〉 特に強く指摘している屯数の食い違い『四、三九七屯も完全に無視』歩溜、能率、条件、狭ボタ等、完全無視。且免税出炭無視で、しかも銀行提出の石炭のカロリーのみをとらえ、右条件一切無視で、カロリー計算のみに依る事は差戻控訴審の判決とは全く別な横道の方向で上級裁判所の判示に従っていない事は真実とほど遠い誤認である。

〈F〉 又検察官第一回論告で『立証充分である』と二十数回も立証したのに、当初の立証がくずれ、当初の目的が立証出来ない今日、本件を終了させるべきでないでしょうか。

〈G〉 特に上級裁判所の判決の判示に答えなく、全く別件を行くが如く、突如としてカロリーのみの計算で独走する事は『真実をとらえた差戻判決を蹂躙』したのみで、原審判決は事実を甚しく誤認している。

(十二) 丸吉一坑は赤字であり、黒字であると云うのは、丸吉二坑の利益を一坑に加えるか、非常識人の云う事である。

〈A〉 第五回公判昭和四八年九月一八日石井重信証人(元三井社員)

〈11〉〈12〉〈13〉〈14〉〈15〉中〈11〉日産三〇〇屯以内は赤字である。

それが二〇〇屯から二五〇屯より出なかったので〈14〉一口に云って立地条件が悪い。断層、水等が多い事を証言している。

〈B〉 第六回公判昭和四九年一月二五日川原紀明証言

『〈19〉〈23〉〈24〉〈26〉〈27〉〈28〉〈55〉〈63〉〈64〉〈65〉117中天上も悪く、能率も二坑三坑に比し悪く、且月産一二、〇〇〇屯から一三、〇〇〇屯の出炭設備をしているのに二、五〇〇(一、二、三坑含)屯より出なく、且カロリーも悪いと証言している。(丸吉一坑のみの実際屯数は一、七三八屯である弁論要旨昭和四二年一月二七日徳川弁護人二二丁記載)

〈C〉 第六回公判昭和四九年一月二五日河野正直証人

〈10〉〈12〉〈38〉143153155狭多く、設備大きく、能率悪い二坑は石炭も一人当十五函も出すのに丸吉一坑は一人当五函より出ない。

〈D〉 最終陳述昭和四二年一月二七日被告人田中隆博

(二九頁(9)丸吉炭坑(一坑)の赤字の経歴中記載

〈E〉 最終陳述昭和五一年三月一七日被告人田中隆博

以上の如く丸吉一坑は旧三井五坑と称し、三井が赤字続出の為その責任者は毎月そして決算期に頭を拘え、頭痛の種であった。遂に三井の田川礦業所も手を上げ、三井鉱山本社の重役会でも調査研究の末、赤字解消の為手放したもので、三井鉱山は日産三〇〇屯の出産がないと赤字であった。

〈F〉 当社は礦区が手に入ったので喜んで着手したが、石井重信証人の云った様に意外に礦区そのものが悪かった。天盤が悪く、地盤が悪く、水が多く、ガスも多く、且断層も多く思う様に出炭は出来なかった。三井の日産三〇〇屯どころか日産約六〇屯強と云う不成績で三井の約五分の一強と云う有様でした。

〈G〉 同じ炭坑で、同じ坑道で(むしろ三井より採掘した分だけ深くなった)同じ設備で出炭だけ約五分の一強の出炭低下ですので、普通常識で考えて三〇〇屯出ないと赤字で手放したのに、当社は同じ条件でその五分の一より石炭が出ないのに黒字だと云う検察官の常識を疑う次第です。『此処に本件の鍵がある』と思われるのです。

〈H〉 丸吉一坑を見た人は異口同音条件が悪いと云っていて、とても良い一坑ですと云える人がいないのです。そこを良く御高察願い度い点で御座います。斯の如き状態から検察官が黒字だと云う根拠がどこから出るのかわからない。『黒字を出しているのは炭坑からでなく、上級裁判所(高裁)の判示に従わず、歩溜を考慮せず、差戻判決に示されない。『オールカロリー計算按分で』高裁の判示を『ボカシ』免税出炭四、三九七屯の上級裁判所の判示を無視し、丸吉二坑の利益を検察官の筆一本で丸吉一坑の利益とした大きな違法と事実の誤認があります。

(十三) 山吉炭坑への貸倒損金否認は事実誤認であります

〈A〉 法人税法違反事件第二回弁論要旨昭和四二年一月二七日(故名川保男弁護人提出)

山吉炭坑の貸倒について四、三五丁表、裏三六丁表、裏三七丁表裏の中記載

〈B〉 控訴趣意書昭和四二年六月五日被告人田中隆博

一八頁(十四)の中

〈C〉 上申書昭和四三年七月六日被告人田中隆博

((一)山吉炭坑貸倒金について一頁より三頁六行まで)

〈D〉 被告人田中隆博の最終陳述昭和四二年一月二七日

(三〇頁(10)山吉炭坑貸倒金について)

〈E〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日被告人田中隆博

((十)山吉炭坑貸倒損金四、〇四六万九千円認容願い度き事

〈F〉 公判昭和四三年三月一二日川原紀明証言

〈21〉より〈28〉まで昭和二六年十月頃大断層に逢着し、坑内撤収の旨証言

〈G〉 第七回公判昭和四三年五月七日河野正直証人

〈33〉より〈56〉まで〈90〉より〈95〉まで

山吉炭坑が大断層に逢着の事

右に依り坑内撤収作業開始に依る閉山の事が証言されている。

〈H〉 第二六回公判昭和三五年五月二七日金子義治証人(国税局員)

(一五頁被告人問答の項十行中『その貸金が全部取れないと云う事になれば、会社は落して(損金に)も差し支えないんだと、こういう事になって居ります』と証言して貸倒損金は認容さるべき証言をなして居る。

〈I〉 第二五回公判昭和三五年三月一五日久富辰市証人

金子国税局員と異口同音、断層逢着採掘、伸展不能の際は欠損に落すべき事を証言して居る。

〈J〉 事実具申書昭和三四年十月三一日弁護人提出

四七-四八頁中

山吉炭坑立替分 三、八八三万九五七三円

日本興業銀行利息 一二〇万

山吉炭坑水洗機設備外 四三万

右合計 四、〇四六万九千円也貸倒損金

右の具申書提出した時、当時の後藤裁判長は法廷に於て『民事事件ならこれで和解が出来るのですがね』と云われた。『此の一事』に於いても同じ法を取扱って居る方が云われるのですから、貸倒損金に価するからと云われた事であって、本件解決の方途であると見ての発言と存じます。

〈K〉 本件は昭和二六年十月頃山吉炭坑は大断層に逢着し、石炭は採掘出来なくなった。即ち此の時点で炭坑閉鎖が決定され、坑道一切撤収工事が断行された。

依って此処に回収不能が発生し、貸倒損金が決定されたわけです。以上の様に山吉炭坑への貸倒損金の発生した事は事実であり、此れを否認する事は事実誤認であります。

(十四) 被告人社長田中隆博の個人及び家族の生計費云々は事実誤認

〈イ〉 脱落所得説明書(期日不明起訴当時)検察官提出

〈ロ〉 石炭原価不当(会長家族生計費等)二三三、二八九円会長故田中彰治同家族、社長田中隆博の個人及他の法人の費用を石炭原価に計上していたので益金に加算し、仮払金として処理した』とある。

〈A〉 8/2 一、左官材料代本宅 被告人関係なし

〈B〉 8/10 一、昭和二六年七月分本宅稼働賃金自見構口払 同

〈C〉 8/30 一、ラジオ修理代、小型ラジオ、アイロン…平野ラジオ店、田中彰治宛 同

〈D〉 8/20 一、田中彰治より田中ヒデ子宛二〇万送金料 被告人関係なし

〈E〉 10/27 一、女物紋付一式仕立、島津呉服店払三万円 同

〈F〉 10/27 一、田中彰治領収、島津呉服店 同

〈G〉 12/14 一、印、千代田セメント(株) 同

〈H〉 12/18 一、国式本宅賃金三名 同

〈I〉 12/19 11/26 一、本宅雑給 同

〈J〉 1/14 一、本宅人夫賃 同

〈K〉 1/24 一、恵子、勝吉、学校入学式金 同

〈L〉 1/29 一、社長宅火鉢一ケ 同

〈M〉 1/29 振興物産印代 同

〈N〉 2/11 同 看板代 同

〈O〉 3/18 自見他一名 本宅人夫代 同

〈P〉 3/8 本宅稼働人夫賃 同

右の通り丸吉炭坑の事は田中房子の権限で処理されたものである。

〈ハ〉 被告人田中隆博は再三に渉り丸吉炭坑の経理は田中彰治の本妻田中房子がやっていて、被告人の嘴一つ差し入る余地のない事を叫び続けてきましたが、事件発生以来二十五年間、今だに訂正されていない。再度申上げます。私は取扱っていない。且知らない。又此の金銭の支出及物の動きも知らない。特に前記〈ロ〉の社長宅火鉢代一ケとあるのは、被告人の関知しない処で、天地神明に誓って申上げます。

〈ニ〉 公判昭和三四年五月一九日田中房子証言

〈42〉で明らかな如く『本宅にお客様用に届けられた』と云って居ります。被告人田中隆博は本件に全然関係していない。むしろ田中房子に被告人は監視監督される立場であり、私物等自宅になど持って行ったら大変な事で、故田中彰治に告げられて、直ちに解雇され、勘当される立場にあったのですから、被告人個人の生計費や私物など会社の金等一銭でも取扱えない者がなんで検察官や裁判官の云う様に生計費等に当てる事が出来るのでしょうか。社長とは名ばかりなんで、社長とあるのは、会長の事を当時まだ社長と云っていた人が多かったので、新しく入った会計係が書いたのではないかと思います。前項の田中房子の公判証言は田中房子の職務や権限が問われ、且答えている事実に基づいて起訴以来二十一年間被告人は主張し続けて来たのですが、此の間検察官や裁判官は誤り続けていて訂正もせず、余りにも職務怠慢でないでしょうか。たまには被告人の身になって考える事があるのでしょうか。

〈ホ〉 第七回公判昭和四三年五月七日河野正直証言

〈25〉〈26〉〈27〉〈28〉〈29〉の内〈26〉『その頃田中(被告人)は主にどこにおったのですか』 答 飯塚です。

同公判〈87〉〈88〉〈89〉で丸吉の金銭全部把握、銀行、渉外関係一切の権限を田中房子が持っていた事が証言されている。

〈ヘ〉 判決昭和四二年三月二四日 四四頁九行十行中『被告人田中隆博の家族の生計費』とあるが、被告人では有りません。

〈ト〉 判決昭和五一年五月二九日、三八丁表、一、前掲〈4〉より

『社長宅火鉢代金として三、五〇〇円とあるは誤認である。

〈チ〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日被告人田中隆博の中(十六)四三、四四、四五頁中

〈リ〉 控訴趣意書昭和四二年六月五日被告人田中隆博

三、四頁((4)脱税行為は本人の利得がある為にするのが常識だが、被告人田中隆博に一銭の利得もなかった)

以上河野証人の云う被告人田中隆博は飯塚の振興炭坑に居住。且田中房子は丸吉炭坑の金銭全部把握、銀行、渉外関係一切行なっていた旨。又田中房子の公判調書中にも田中房子が処理した事、並に社長宅火鉢も本宅(故田中彰治)へ社員が来客用使用の為持って来たと云っている。社員も田中房子本人も田中隆博の権限のない事、田中房子の処理した事等明らかに供述している以上、それを長年月放置される事は被告人としては大変な事であり、事実誤認であります。

(十五) 本件は長期間に亘り関係者の死亡続出し、且関係炭礦部門廃止等々正当なる防衛は出来なくなった。

〈A〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日被告人田中隆博

(五三頁より五七頁迄)

本件は昭和二六年四月以来二五年の長年月が流れ、其の間、関係者の死亡続出、又炭礦部門廃止等今後の証拠の立証等が不可能となった。

本件の関係者の死亡者左の如し

〈1〉 本件張本人 元衆議院議員 故田中彰治

〈2〉 元振興鉱業開発(株)代取 元衆議院議員 故今村長太郎

〈3〉 本件弁護人 元国家公安委員、元東京弁護士会長 故名川保男

〈4〉 三人の内二名死亡 弁護士 故川島英晃

〈5〉 本件証拠書類作製者 故久富辰市

〈6〉 本件国税局調査及起訴書類作製責任係長 故下坂卯一

〈7〉 当時石炭納入九州電力戸畑発電所長 故井上所長

〈8〉 日鉄鉱業潤野坑長、振興及椿礦区分譲及監督者 故野上坑長

〈9〉 日鉄鉱業二瀬本部鉱務課長、振興及椿礦区分譲監督者 故岩隅課長

〈10〉 日鉄鉱業租礦区関係事務主任(判決四二・三・二四日)十二頁 故花野開志

〈11〉 三井五坑分譲当問田川所長 取締役担当重役 故徳富重役

〈12〉 原審判決四二頁(ト)110中の 故坂口策好

〈13〉 振興炭坑工作課長 故高野秀雄

〈14〉 同 庶務課長 故緒方課長

〈15〉 同 営繕係長 故太田係長

〈16〉 同 同係 故小山内秀三

〈17〉 同 倉庫係 故藤田 係

〈18〉 同 経理係 故鈴木隆

〈19〉 飯塚炭坑隣接鉱害被害者(質問顛末書 昭二八・七・二一) 故白水不可止

〈20〉 振興鉱業開発(株)本社 鉱務技師(質問顛末書 昭二八・五・二九) 故山本駒太郎

以上本件関係者二十名を数える死亡者続出し、従って裁判の維持及続行の為の両腕、両足、目迄も失った状態と同様の形で、正当なる防衛が出来なかった。

〈B〉 又本件の炭坑もなくなり、尚本件の張本人たる故田中彰治が他界した為、本件は万事終りを告げました。尚、本件に三人の弁護人が居りました処、三人の内二人迄も他界致したる為、正当なる防衛力は六〇%も激減、否、数字的のそのもの以上に大激減した。

又炭礦業界を監督、指導する福岡通産局石炭部も縮小して見る影もなく、当時の人は皆目不明。

元所轄飯塚税務署に当時の税務書類の請求するも保存なしの解答あり。又検察官に弁護人から押収書類の再三の返還請求にも応ぜず、又納税額等も福岡国税局に請求するも返答はくれず、止むなく大蔵大臣宛に請求せるも、その納税額の証拠を通知せず、十年間も国税局と検察官の共謀で隠匿され、被告人に税金未納の心証を悪くして量刑過重を計る等々、故意に納税者が著しく不利益となる様妨害する等、又本件の所得等数額が少くなって無罪になりそうになると、神聖なる法廷に於て十年間双方から何等異議のなかった本社費及本社経費を、別に新たなる証拠もないのに、且死亡した証人の証拠も変更して、再三の訴因の変更に依り経費を削減し、被告人の既得権を著しく不利益に導く等、何十年経っても『いたちごっこ』の状態をくり返す有様です。

〈C〉 本件は起訴の時も国税局と検察官が打合せて、本庁の認証を得て決定した事項であり、裁判中も国税局と検察官が同席していて、十年間双方より異議なく認定されていたものを変更する事は『一事不再理』の法に反し、又国で定めた事項を他の係官又は他の官庁が覆す事は『政令二途に出る』と云って、違法と聞きますが、前項本社費、本社経費の削減は正に該当するものと信じて止みません。

〈D〉 又石炭合理化整備事業団等も、当時の人は居らず、必要とする書類も散紛し不明、日鉄鉱業(株)本社に当時の必要書類を問い合せるも、既に石炭鉱業部門の廃止、且関係者死亡又は不明に依り書類一切不明。三井鉱山に連絡するも、当時関係者死亡及退職不明、且関係書類等も不明に付、当時の実状究明し様にも現状では不可能となり。

〈E〉 当時ロボットで若かった被告人も、既に停年年齢に及び、人生の青春時代を裁判に拘束され、その為就職にもつけず、弱小企業の自営の真似事で人生に終りを告げ様として居る。本件で利益を得た者は罪にならず、給料も一般職員並(証拠提出済)で被告人は本件で利得を得て居らず、張本人故田中彰治は検察官も調べておらず公判調書もなく他界し、事実の究明を怠り、ロボットのみを起訴以来二十一年間も被告人として法の拘束をなし、事実の究明をなされずして人間としての青春の喜怒哀楽の生活を奪われ、真実でない法の裁きで死んで行く。此れで真の法の秩序が保たれるのでしょうか。被告人田中隆博にはわからない。

(十六) 金四三二万一〇八二円也を交際費の追認願い度き事。完全否認は事実誤認

〈A〉 判決昭和四二年三月二四日三五頁(7)に記載

(7)四三二万一〇八二円也

〈B〉 判決昭和五一年五月二九日21丁(F)四三二万一〇八二円也

〈1〉〈2〉記載金員は故田中彰治の政治資金関係に使用されたものですが、当時三井鉱山関係、日鉄鉱業関係等、礦区関係、石炭販売関係、五千カロリー以上の販売、小野田セメント、日本セメント、鉄道関係等政治的に活動して貰っていた関係の費用の様です。昨今自民党選挙対策委員会の担当者に聞く処に依ると、昭和二六年当時、政治資金は交際費として認められていた旨聞かされました。又経理に精通した人が居り、依頼の都度交際費として記帳してると良かったのにと存じます。当時は交際費は税法上無制限で有りましたので、大変厚かましいお願いですが、右の実体を御配慮の上、交際費として認容願い度き事。

〈C〉 最終陳述昭和五一年三月一七日被告人田中隆博

((十五)四一、四二頁中記載)

(十七) 昭和二五年度は免税(振興の新坑・丸吉二坑)期間であったのに其の措置がなされない誤りがある。

〈A〉 判決昭和四二年三月二四日二九頁〈79〉三〇、三一頁中

二五年度更正決定決議書云々と有りますが、二五年度は免税期間中であるに不拘らず免税措置はなされず、税金を取る事だけに汲々として居て、納税者の前年度の利益を著しく不当に失わしめ、精神的にも大なる打撃を与えた誤った決議書に基づき判断され、それが被告人の量刑に影響させる等重大な誤りがある。尚大蔵大臣宛二五年度の納税した中間納税額を問い合せた処、飯塚税務署には二五年度の書類がないので解答出来ない旨通知があった等、納税者の不利益のみに執念する違法の誤りがある。

(十八) 四〇〇万円の否認は事実誤認であります。

〈A〉 法人税法違反事件第二回弁論要旨昭和四二年一月二七日故名川保男弁護人四七丁第五、四八丁前葉中

〈B〉 控訴趣意書昭和四二年六月六日故名川保男弁護人六八丁裏末尾、二行より六九丁、七〇丁裏二行まで

(二五年度留保金の四〇〇万円は経費に認容願い度き事)

〈C〉 第一回検察官供述書昭和三〇年四月二九日赤城潔供述

〈D〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日被告人田中隆博

〈E〉 控訴趣意書昭和四二年六月五日被告人田中隆博

(一七頁(十一)四〇〇万円否認は事実誤認)

〈F〉 被告人田中隆博の最終陳述昭和四二年一月二七日

(二七頁(6)四〇〇万円は経費として認容願い度き事。)

本件の四〇〇万円は退職給与引当金、礦害補償引当金で前記否認された分で、当期二六年度に於いて認容されるべきもので、否認は事実誤認であります。

(十九) 木材代金一、二三四、九九一円否認は事実誤認であります。

〈A〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日被告人田中隆博

〈B〉 第二回準備手続調書昭和三四年二月一七日(ロ)(ハ)木材代 故川島英晃弁護人提出

〈C〉 第一三回陳述書昭和三七年七月二四日弁護人提出五頁(3)

〈D〉 法人税法違反事件第二回弁論要旨昭和四二年一月二七日

(故名川保男弁護人三一丁(ロ)表裏三二丁三行まで)

(架空原価一、二三四、九九一円)

〈E〉 被告人田中隆博の最終陳述昭和四二年一月二七日

(二八頁(ワ)木材代を経費に認容願い度き事)

〈F〉 控訴趣意書昭和四二年六月五日被告人田中隆博

(一七頁(十二)木材代の事実誤認故田中彰治所有である謄本提出)

本件の木材は振興鉱業開発(株)の昭和二六年度に使用した事は事実であります。木材は故田中彰治の個人所有の物を使用したものです。故田中彰治のものであろうが第三者の所有であろうが、会社で使用したものは当然経費として認むべき義務があるのに、何故か事件発生以来二五年間も経るに認容しないのは不思議でなりません。否認は事実誤認であります。

(廿) 礦害賠償経費の否認は事実誤認であります。

〈A〉 証拠調の結果に対する弁護人の意見昭和四三年七月一五日

(故名川保男弁護人提出)四九頁末五〇、五一頁に渉る)

〈B〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日被告人田中隆博

(一四頁より一六頁まで)

〈C〉 振興丸吉分 金 七三一万二、三六〇円

振興炭坑分 金一、八二七万八、〇四四円 被害へ支払った金額

振興丸吉鉱追加分 金七、九六八万八、〇〇〇円(本省通産局認定分)

右合計 一億五百二十七万八千四〇四円也

右金額の三〇% 金三、一五八万三、五二一円也は昭和二六年度の鉱害賠償費であるので否認は事実の誤認であります。

(廿一) 減価償却費不足金否認は事実誤認

〈A〉 事実具申書昭和三四年十月三一日弁護人提出

(昭和二六年度固定資産減価償却額修正について等)

右八丁表(5)実際の経済的採掘可能炭量並に鉱山の命数にて計算した固定資産の償却額明細表の中

(註記) 一、六二二万一六二六円 原価計上すべき額の処四八二万八八九二円より計上していないので不足額一、一三九万二七三四円の追加償却が必要である。

右の如く昭和二六年度迄の減価償却が不足でありますので、此の金額を否認する事は事実誤認であります。

(廿二) 租礦区料の償却不足額否認は事実誤認

〈A〉 第三回事実具申書昭和三五年十一月二六日弁護人提出

二五丁表(8)の中記載

〈B〉 最終陳述書昭和五一年三月一七日被告人田中隆博

〈C〉 控訴趣意書昭和四二年六月五目被告人田中隆博

十六頁(九)租礦区料償却の事実誤認の中

〈D〉 右の如く福採登第一三四号の租礦区料は昭和二六年度分迄に一七二万八七三三円が償却不足で有ります。依って否認は事実誤認であります。

(廿三) 本社費及本社経費は国税局長当初認容全額を経費と認めること否認は事実誤認

〈A〉 本社費 八、八一一、〇八〇円

本社経費 一四、二八三、一一五円

合計 二三、〇九四、一九五円

右の金額は国税局長の認定した事項である。

〈B〉 国税局長の認定を得る書類を作製認定を受けた担当責任者故下坂卯一係長は、実際に調査の結果右金額を認定を得て決定した旨立証された第二〇回公判昭和三四年一月十三日故下坂卯一

〈C〉 右金員二三、〇九四、一九五円は、一担国税局長が認定したものは、再びそれを変える事は『一事不再理』の原理があります。

〈D〉 右金員二三、〇九四、一九五円の金額認容を主張する事は『被告人の既得権であり』此を減額して既得権の侵害の違法を犯して迄被告人を著しい不利益に落し入る法はない筈です。

〈E〉 控訴趣意書昭和四二年六月五日被告人田中隆博

(十五頁(七)東京本社費並に東京本社経費の事実誤認)

〈F〉 上申書昭和四三年七月六日被告人田中隆博

(三頁(二)本社費外経費多数の減額は不当で有ります)

以上の如く本社費及本社経費を減額することは違法であり誤認であります。

〈G〉 判決昭和五一年五月二九日別表一振興鉱業所損金計算書

〈イ〉 (〈5〉石炭原価中本社費 四、三八〇、三六〇円)

〈ロ〉 同 修正分 四、八八九、一八五円

〈ハ〉 〈イ〉+〈ロ〉 小計 九、二六九、五四五円

同判決別表五丸吉鉱業所損金計算書

〈ニ〉 (〈5〉石炭原価本社費 四、四三〇、七二〇円)

〈ホ〉 同 修正分 三、九七九、五八五円

〈ヘ〉 〈ニ〉+〈ホ〉 小計 八、四一〇、三〇五円

本社費及本社経費合計 二三、〇九四、一九五円

〈ハ〉+〈ヘ〉 合計 一七、六七九、八五〇円

既得権侵害減額違法分右差引合計 五、四一四、三四五円

〈H〉 以上の如く故下坂卯一係長が国税局長及国税庁本庁の了諾も得て局長認定を得る迄には帳簿、伝票に依り関係者を呼び出して事情聴取をして『帳簿記載はこうだが』『実状は経費に認むべきものもある』と云う判断で認証を得たもので、責任者は第二〇回公判で二三、〇九四、一九五円は認めたと証言しているのに、十数年も経て何の事情もわからぬ者が記載帳簿面だけ見て、これは認められぬと云えるのかどうか全く法律前の問題で常識を疑う次第です。法律にも死亡した者の公判調書は証拠になると云われている。うわべの帳簿づらだけ見て判断するなら、別に何百人の人を使い三年の日数を費した事は馬鹿者の仕業と化し、行政侮辱の行為であり、前歴者は国の経費を無駄使いした事になり、最初から内容も事情も聞かず帳簿だけ見て判断すれば三年もかからなかった筈です。且調査費もいらなかった。

そう云う様な経緯があるからこそ『一事不再理』とか『政令二途に出る』とか『既得権の侵害』等があるのは行政に携る人への戒の言葉だと受け止めています。

〈I〉 従って当時の責任者もいない十数年も経た国税局長の認定を得たものを、今更うわべの帳簿づらだけ見て事をきめられては何十年裁判をやっても終る事を知らないでしょう。又『国税庁とか国税局長の認定等政府の事に国民は信じられぬもの』として良いのでしょうか。

従って東京本社費、東京本社経費を右全額認容する事が合法であり、減額する事は違法であり誤認であります。

(廿四) 不合理並に誤認の列挙

本件は余りにも矛盾が多過ぎる事件で素朴な気持で常識的に判断すると既に解決している事件と思考致します。

〈イ〉 当初捜査の時点で目標は被告人田中隆博でなく故田中彰治であった。その関係全国百数ケ所の捜査だった。そして被告人は田中隆博になった。本件は出だしの根本から間違っていた。

〈ロ〉 本件は税務担当官が『免税坑に見合う納税』を被告会社に指導指示した事が、本件の根本問題であった。

〈ハ〉 本件は国税庁本庁が新設免税の調査団を炭坑に派遣し実地調査し免税が決定した。

〈ニ〉 税務担当官の免税見込納税指示指導も査察となった為、免税分だけ逋脱と見做された。

〈ホ〉 処が〈ハ〉の様に新設免税が決定され、税務担当官の免税見込指示納税が合理的であった事になる。

〈ヘ〉 被告人は最初から行政指導に依ったもので、不正、悪質はなかったが、査察になった為不正、悪質呼ばわりとなった。

〈ト〉 処が税務担当官の見込納税が適中して新設免税になり、良く調査してみると免税所得控除前所得の段階で起訴した金額より被告人の申告所得が一、〇〇〇万円も多かった事実が発見された。

〈チ〉 即ち被告人は法人税を逋脱の意図はなかった事になった。

〈リ〉 そこで悪質とか、無申告の時は申告『時効』期限は五年間であるが

〈ヌ〉 免税の主張は通り申告と免税所得控除前には起訴した金額よりも一、〇〇〇万円も多い等、逋脱の意図がない正常な税務申告をした事になった。

〈ル〉 処が税務申告をした時の申告時効期限は三年間であります。

〈ヲ〉 従って昭和二六年度は起訴時点が昭和三十年であるから本件は時効である事になります。

〈ワ〉 即ち本件は裁判の必要がなくなった事になる。

〈カ〉 元来被告人は税務担当官の行政指導に依ったものであるから悪質ではない。

〈ヨ〉 敢えて悪質と云うならば、税務担当官が新設免税の決定前まで云われるかも知れない。

〈タ〉 税務担当官も玄人の信念から新設免税を考慮したのだから悪質とは思えない。

〈レ〉 本件は被告人田中隆博が会社全般を総括主宰しているとして起訴に及んだ。

〈ソ〉 処が第二の過ちを犯している。〈イ〉の捜査当時の目標を失い、第二に田中隆博が会社を総括主宰していると見て起訴したが、被告人はロボットで、本妻や愛人の下で坑内外の現場の走り使いで機械器具の様に、且給料も一般職員並で別に利得はなかった。

〈ツ〉 会社全般を総括主宰していたのは、会社の創設者であり全株支配の故田中彰治であった。

〈ネ〉 処が世にも不思議に故田中彰治の検察官の供述調書もなく、公判調書もない。

〈ナ〉 処が昭和五〇年十一月二八日張本人の田中彰治は他界した。

〈ラ〉 刑事事件の『真実の究明』『実体課税』の原則では故田中彰治を起訴し、課税し、且課刑せねばならぬ訳で法の精神から見ると起訴する者を間違えた疑が有ります。

〈ム〉 『真実の究明』で故田中彰治が被告人とするならば、本人死亡で『訟訴棄却』となり、本件は〈オ〉と同じく又終了と云う事になります。

〈ウ〉 処が起訴。課税、課刑、二十五年の裁判の苦しみは、張本人の故田中彰治でなくロボットの被告人田中隆博が受けている。

〈ヰ〉 故田中彰治の別件刑事事件は本人死亡の為『訟訴棄却』となった。

〈ノ〉 高訴審差戻判決で歩溜に依る正確な屯数を出すと屯数に依る経費の按分不可として差し戻したのに、其の判示を原審は完全に無視している。

〈オ〉 今回原審判決は控訴審差戻しの判決の屯数をカロリーにすり替えたのみで、経費の按分も差戻前と同じであり、控訴審判決の判示を全く無視している。

〈ク〉 尚控訴審判決は混炭四、三九七屯は新坑免税の二坑の所得であるから、此の屯数を一、二、三坑に按分は不可と判示されているのに、免税所得とせず完全に此も無視してカロリーに紛飾して差戻時の中味は同じであるから、今回も差戻の条件が含まれている。

〈ヤ〉 丸吉一坑は黒字だと検察官に原審判決は判示しているが、各証人及礦区を売却した三井礦山の担当係長も口を揃えて異口同音赤字である旨証言している。

〈マ〉 三井鉱山では日産三〇〇屯出ないと赤字であると証言している。処が二〇〇屯から二五〇屯より出ず赤字であった。

〈ケ〉 原因は坑内条件が悪い。天盤、地盤が悪い、ガスが多い、水が多い、断層等も多い等が原因。

〈フ〉 処が被告人会社は同じ坑道、同じ設備で出炭は日産約六〇屯より出なかった。即ち三井の目標出炭の五分の一で黒字が出る筈がない。常識的に見て、どこからそんな言葉が出るのか被告人にはわからない。

〈コ〉 検察官や原審判決が黒字と云うのは、控訴審で判示している混炭四、三九七屯を課税坑に加えたり、三坑の新設免税分も一坑に加えたり、カロリーで経費を按分して事実を卑曲するからこそ黒字になるので、全く普通の常識では考えられない。

〈エ〉 丸吉一坑は歩溜計算すると、二、〇〇〇万円の赤字となる。(徳永弁護人)

〈テ〉 控訴審判示無視で『突如』カロリーに変身させ、且銀行に出す返済可能な作文の書面を刑事事件に引用、且被告人の量刑の尺度とする事は甚だ不合理であり、事実誤認であります。

〈サ〉 事件発生から二五年の長期に及ぶ関係上、関係者の死亡が続出し、二十名に及び、特に三人の弁護人の内二名も他界する等、被告人は今後の裁判の維持に正当なる防衛が出来なくなった。

〈キ〉 被告人田中隆博の個人及家族の生計費云々の項は、丸吉坑の経費から支出しているもので、本妻の田中房子の権限支出で被告人の関知していないもので、二五年間機会ある毎に、且証人も立てて立証して被告人のものでない事を明らかにしているのに、今だに訂正されていない。わからなくて出来ぬのか。怠慢でしかないのか。権威の殿堂の裁判所ですから『疑わしきは罰せず』で取り消して貰いたい。

〈ユ〉 以下金額的矛盾を列記致します。

A 礦害賠償費 三、一五八万円

B 本社経費否認額 五四一万円

C 混炭免税分四、三九七屯 二、二七九万円

D 山吉炭坑への貸倒損金 四、〇四六万円

E 前年否認二六年認容分 四〇〇万円

F 三坑免税分 一、七六七万円

G 木材代 一二三万円

H 租礦区償却不足分 一七二万円

I 交際費追認願の件 四三二万円

J 差引赤字歩溜に依る振興、丸吉損金一、二八四万円

K 減価償却費不足分 一、一三九万円

L 起訴より多く申告した分 一、〇〇〇万円

実に右合計 一億六、三四一万円の

赤字となり右金額を否認する事は甚だ不合理であり、事実誤認であります。

即ち経理の熟練者が本件の経理事務を行なっていたならば、右金員一億六、三四一万円の経費が容認され、且本件は起らなかった訳です。当然被告人が経費の損金として亨受すべき金員であります。

最後に此の外、従来より弁護人の主張及提出している各陳述書等各上申書等並に被告人田中隆博の主張及び提出している各陳述書等上申書等総て之を引用致します。

以上の通りで御座いますので、何卒宜しく御高覧賜ります様御願い申上げます。

以上

別紙 第1-1

振興鉱業所損益計算書原審判決と控訴趣意書主張額対照表

〈省略〉

別表 第2-1

丸吉鉱業所損金計算書原審判決と控訴趣意書主張額対照表

〈省略〉

別表 第1-2

振興鉱業所の課税免税坑別

販売屯数及販売金額

〈省略〉

註 出炭函数歩溜り販売数は、昭和47年3月21日附反論書(徳永、名川両弁護人提出)4丁の表を引用する。

別表 第2-2

丸吉鉱業所の課税坑別販売屯数及販売金額

〈省略〉

昭和五一年(う)第四〇九号

控訴趣意書

被告人 振興鉱業開発株式会社

外一名

右の者に対する法人税法違反被告事件につき左の通り控訴趣意書を提出する

昭和五一年一一月一五日

右弁護人 徳永竹夫

福岡高等裁判所第三刑事部 御中

第一点 原判決は振興鉱業所、丸吉鉱業所の免税坑が何れも全く異なる炭層を探堀しその各炭層は何れも山丈、炭火、カロリー歩渡り探堀条件、探炭能力などを著しく異なる事実を無視し事実を誤認し収支をなしているがそれは判決に影響を及ぼすこと一件記録に徴し明瞭である

探堀炭層

振興鉱業所

免税坑 五尺層

課税坑 四尺層

反論書 (1) 振興旧坑、振興新坑炭層比較表

(4) 丸吉炭坑炭層比較表

参照

第一 原判決は石炭の歩溜りとカロリーの関係の実情を無視し販売収入、カロリーを認定し且つこれに基いて免税坑、課税坑に区分計算したのは事実を誤認し且つ理由不備である

一、歩溜りについて

石炭は容量屯でありその一屯は四〇才とされている

(一) 振興鉱業所の炭函は二四才函であった

従って一函の石炭は〇、六屯である

即ち一函に全部石炭があればその石炭の容量は〇、六屯であるということである

歩溜りと屯数との関係は

別表 歩溜り率振興鉱業所

参照

(二) 丸吉鉱業所は二六才函であった

従って一函全部石炭のときは〇、六五屯である

歩溜りと屯数との関係

別表 歩溜り率丸吉鉱業所

参照

二、尚丸吉鉱業所は香春八尺層を当時五、八〇〇カロリーの石炭を精炭し販売していたのでそれは香春八尺層の石炭を歩溜り〇、三八とすれば五、八〇〇カロリーのものを精炭し得たということである

三、石炭は炭層を異にする毎にカロリー山丈、炭丈、硬の狭みの多少、探堀条件、探堀能力、天井の良否、地盤の状況を異にするものである

四、当時の需給関係で香春八尺層の石炭は歩溜りを〇、三八とすれば五、八〇〇カロリーの精炭となし得たのでこれを主として販売していたものである

五、証人川原紀明の供述

昭和四三年三月一二日福岡高等裁判所第五回公判廷にて

「香春八尺層は歩溜りは大体〇、三八位だったと思います

〇、三八と云うのは五、八〇〇カロリーを作るためのものです」

この証言の意味するところは石炭の販売に於て先づ何カロリー本件の場合五、八〇〇カロリーの石炭を精炭するために〇、三八という歩溜りになるということである

これは水洗機でどの程度洗うかを調節し需給関係と探堀石炭の質、品位硬の多少を考慮し五、八〇〇カロリー程度の石炭は〇、三八の歩溜りとすれば多量に精炭し得られたというのである

即ち、三八の歩溜りは二六才函であるから一函で約六割の精炭をすればそれは約五、八〇〇カロリーの精炭であるということである

六、歩溜りとカロリーとの関係、粗炭より精炭する場合の右と関連する数量との関係灰分との関連などについては

別表

「販売計算法」

参照

歩溜り率 振興鉱業所 24才函 1函 0.6屯

〈省略〉

歩溜り率 丸吉鉱業所 26才函 0.65屯

〈省略〉

第二 原判決は差戻判決の趣旨を誤解したるか又は無視したるもの従って法人税法同通達の趣旨を誤解し延いては理由不備又は理由に齟齬がある

一、差戻判決の要旨

(一) 課税坑、免税抗は何れも、

可探炭量、歩溜率、カロリー、採堀条件、採炭能率、従業員数、設備機械の配置状況等が異る

更に丸吉二坑の良質の石炭を採堀しボタ等を混入し売炭している

従って破毀前の判決が検定野取の段階で丸吉炭坑の出炭量を三三、一一五屯として

〈省略〉

之を比率按分して

〈省略〉

と認定したが右差四、三九七屯を課税の対象としたのは合理性がない

(二) 従って課税坑と免税坑の実態の差異に有無あることを考慮し

前記諸条件設備等を諸帳簿、諸資料各関係者の証言など調べ審理を画して両坑の損益の各項目につき可能の限り調査し且つ坑別の出炭屯数の算出につき更に精査を画したうえ各坑別の実情に則し販売収入、石炭原価などを正当に区分計算すべきである

(1) 明瞭なものは専属区分による

(2) 共通又は合算されているものは具体的にその性質内容に従い可及的に客観的に近い比率で区分計算する

(3) 出炭函数が明らかであるから実際の歩溜率を乗じ各坑の出炭屯数を算出し推計計算は合理性の範囲内とすること

尚経理が区分されていないが合理的な区分計算の基準は

1. 専属区分による

2. 共通するものは性質内容により区分する

3. 正確な出産屯数の比率による

4. 共通ではなく合算されているものは

イ 販売屯数により按分する

ロ 出炭屯数(本年度或は過年度)により按分する

ハ 出炭屯数、従業員数、使用電力料、採炭能率、支払賃金の割合による

二、差戻判決の重要なる丸吉鉱業所の四、三九七屯の不明な石炭についても原判決は何等之を解明していない

原判決は

「丸吉鉱業所各種屯数並出炭函数表」

のとおり認定している。

丸吉鉱業所各種屯数並出炭函数表

〈省略〉

三、丸吉鉱業所はその出炭屯数を正味函に〇、四二を乗じて算出していて、二六才函であった

(一) 昭和三六年九月九日付当時の係り検事山本新提出の「陳述書」の内

2. 販売原価について

(六) 丸吉三坑の出炭について

参照のこと

(二) 即ち丸吉炭坑の出炭屯数を検量する場合被告会社は正味函数より出炭屯数を算出するに単純に〇、四二の率を乗じて算出している(炭車は二六才函である)

(三) 要するに丸吉鉱業所では正味函数に〇、四二の平均歩溜り率を用いて正味函から屯数に算出していたものである

丸吉鉱業所は炭層が多く各層が何れも炭質、カロリー、採堀条件等が著しく異なっていたから平均歩溜り率によったものである

(四) 丸吉鉱業所の二六才函と容量屯との換算率は左表の通り

四、丸吉鉱業所の出送炭について原判決の認定は数字に間違いがあり計数上も合致せず歩溜りなどを無視し理由不備齟齬がある

(1) 原判決は丸吉鉱業所の販売収入を当期出炭量二八、七一八屯+繰越貯炭五一八屯-期末貯炭-一七三屯=二九、〇六三屯として之に具体性のないカロリーにて免税坑と課税坑のそれぞれ区分計算している

その販売収入一八七六一万二、六二三円八一銭

販売屯数 三、三四六〇屯

は検察官の主張をその画採用している

(2) 然らば前記販売屯数と二九、〇六三との差四、三九屯の不突合いについて原判決の何処にもその説明も解明もなされていない

(3) これは丸吉二坑の田川四尺層の高品位炭四、〇二三屯を低品位炭と混炭販売した事実を無視しているからである

第三 原判決は石炭のカロリーを誤解し事実に基かない公知の事実を無視し甚しく経験則に違背した採証上の違法があり理由にそごがある

(一) 石炭を採堀し硬などを取除いた生産炭を「生炭(なまたん)」と云う

この生炭を分析したものが通常云うところのカロリーである

次に之を洗炭機にて水洗する

洗うにはどの程度の歩溜りとしカロリーとするかを調節する

石炭の販売は〇〇〇〇カロリー保証一屯いくらとして売買されているかである

右調節のとき随時分析してカロリーを計る

買主も随時送付された石炭から資料を採取して分析するからである

即ちその時の需給関係で註文に応ずる石炭を混炭製造し販売するからである

(二) 又石炭の灰分は上が不燃焼部分であるから灰分の多いものほど炭質が悪いので灰分とカロリーは反比例する

我国では灰分が一パーセント増加する毎に八〇カロリー及至九〇カロリー低下するとされている即ち精炭の灰分を下げれば当然歩溜りを減少する

その歩溜りの低下をカバーしてなお多少売上を増さねば採算に合わない

一方石炭の値段は市況と需給関係に左右されるから灰分を少くさえすれば必ず有利になるというわけでもない

従って洗炭、選炭技術に優れていることは勿論であるが採堀炭層が多いということも影響がある左に簡単な例で販売計算法を例示する

その時の市況で

灰分 八パーセント

歩溜り 七〇パーセント

で販売するのが一番有利である(別紙販売計算法参照)

(三) 原判決は一屯当りのカロリーとか七、五八七カロリーとか六、八〇六カロリーとかしているがその頃カロリー当り販売価格が八〇銭-九〇銭であった事実に徴しその認定は違法である

これは販売収入の両坑の区分計算にも影響してくる

この点後述する

販売計算法

〈省略〉

(四) 別紙分析表は旧目尾炭鉱区内から採取した白川寅雄の資料生炭を分析したものである

(五) 原判決に採用されている丸吉三坑の分析表は四、九九四カロリーで之は生炭のカロリーである即ち採堀されたままの資料である

(六) 販売するときは丸吉生粉、丸吉洗粉、丸吉中塊、丸吉洗中塊、保証何千何百カロリー一屯いくらとして売買するものである

分析表

昭和46年2月27日

直方石炭事務所 藤戸至殿

分析室長

受付第75号

分析検定および試験報告書

〈省略〉

徳永弁護人の調査研究の成果

1. 水分には温水、雨水、洗尖水、吸着水分、化合水分がある 一般には3パーセントとせられている

2. 全硫黄分は0.2~0.3低い方がよい

現在は規制されて0.2以下でないとその石炭は使用されない

そこで比較的低い箔豊炭が見直され、それが高い三井三池炭に混入され販売されている

3. 比重は平均1.3である

(七) 丸吉鉱業所の販売収入の販売屯数並一屯当り平均単価は

別紙

『丸吉鉱業所販売屯数単価収入明細表』

の通りである

丸吉鉱業所販売屯数単価収入明細表

〈省略〉

第四 原判決は丸吉炭坑の各坑別出炭につき不確定で四、〇二三屯が不一致である

即ち事実誤認か理由不備である

別紙

日別出炭予定実績表

は原始記録であり最も正確なものである

次にこれ等に基いて作成された

別紙

「丸吉炭坑坑別炭層別実際出炭屯数計算書」

は極めて正確なものである

更らにカロリーについては実際に販売した単価数量による

別紙

(丸吉炭坑日別販売消費明細表)

により販売カロリー屯数等一切弁護人主張通りであることが立証できる

丸吉 日別出炭予定実績表より

〈省略〉

丸吉炭礦の坑別炭層別実際出炭屯数計算書

〈省略〉

(註記) 1. 出炭函数は検炭野取帳並に日別出炭予定 に記載されている出炭函数である。

2. 丸吉二坑の田川四尺層の未洗炭の出炭函数6,189函は、混炭販売のため混炭した、4,023屯に対する函数である。

3. 丸吉二坑の田川四尺層と田川八尺層との出炭函数の割合は、田川四尺層70%田川八尺層30%の割合で計算した(昭和35.10.15日付証人川原紀明供述参照)

上記の割合は昭和26年度の平均割合で、これを月別に計算すれば、田川八尺層よりの出炭は昭和27年1月頃より著しく減少し、昭和27.5月頃よりの丸吉二坑の出炭は田川四尺層よりの出炭一本 となった。

4. 昭和37.5.26日付第11回供述書No.4頁の坑別炭層別出炭屯数の計算は出炭函数並に函当り歩溜り率等の調査が不充分のため誤った計算であるから訂正する。

売消費明細表

〈省略〉

丸吉炭坑月別販

〈省略〉

第五 丸吉一坑課税坑は欠損赤字であった丸吉鉱業所の丸吉一坑は三井鉱山株式会社五坑を諸設備と共に譲受けたもので三井時代から赤字経営で丸吉一坑としても赤字であったと主張立証したに拘はらず課税したる原判決は事実を誤認している

(一) 原審 証人石井重信の供述

(1) 三井五坑は日産三〇〇屯以上でなければ採算が合はぬ

日産二〇〇屯-二五〇屯以上採炭できぬ

それに断層、岩層があり 水が多い

から経費がかかる

(2) 香春八尺層は天井に砂岩一米ありもろい 水分を含むと粘土状に悪化しぼろぼろになって落ちてくるから採堀は非常に困難であった

(3) 地盤は碩岩で盤が膨れ上り水分を含むと盛り上り膨張する

盤打作業せねばならない

(4) カロリーは三、七五五-六、七六〇位

結局赤字であったし断層に ったから譲渡した。

(二) 丸吉一坑の採炭能率で歩溜りの実績で出炭正味函数を屯数に直すと昭和二六年度で歩溜り〇、三八三であったから

総出炭一九、〇二三屯

一ケ月平均一、五八五屯

一屯当り平均販売価格金五、六〇七円六七銭であったから

販売収入 金一億〇六六七万四、七〇六円四一銭

これに原判決のその他の収入

金 七四万二、〇八〇円二四銭

を加え

合計金一億〇七四一万六、七八六円六五銭也

のところ

原判決の支出

金一億二七四九万〇、八四五円也

と差引計算すると実に

赤字

金二〇〇七万四、〇五九円三〇銭也

となる

即ち赤字であり課税の対象とならないにも拘はらず之に課税したるのは事実を誤認しているものである

(三) 証人下河内邦彦の供述

第一九回昭和33年11月20日

(1) 証百七十一号

表紙を書いた残高試算表

補助簿の総括勘定の試表

29葉……昭和二七年三月三一日現在丸吉貸借対照表を作成した

30・5・3検察庁で丸吉鉱業所貸借対照表と財産目録との不突合理由説明書という付表を作成した(但寺下検事の資料でやった)振興岩礦のメモ-伊藤亮が書いた

(右 丸吉売炭収入 左 振興〃 生産原価)昭和二六年度の差引損益である

これによると丸吉の損益………赤字

振興の損益………黒字

丸吉 133428,150円

振興 113227,150円

〃 黒字 18223,943円94

丸吉 赤字 8147,320円28

即ち丸吉一坑の赤字経営が明らかである。

(四) 原審証人宮永正雄供述

三井田川第五坑は採算がとれぬそれに断層につき当った

生カロリー三、七〇〇-六、七〇〇位であった

カロリーは同一炭層でも地盤、地圧で異る

結局三井五坑は採算がとれぬので譲渡した

即ち赤字経営であったということである

第二点 原判決は被告会社の振興鉱業所の新坑、旧坑、丸吉鉱業所の丸吉一坑、丸吉二坑、丸吉三坑の出炭量、販売屯数を確定していないので事実誤認近いては理由不備、理由に齟ごあるものと思料する

一、振興鉱業所

(一) 検察官は振興鉱業所の販売収入、販売屯数につき左記の通り主張し原判決はそのまま之を採用している

〈省略〉

(二) 然れ共売上屯数の内前記売上推定の屯数については何等説明していないし左に前後の数字上それは九〇屯らしいと推定されるに過ぎない

(三) そうすると繰越貯炭、期末貯炭などの数字からの計算上当期出炭量は三六、五〇三屯とならざるを得ない

〈省略〉

(四) 然るに原判決は

出 炭 量 ― 三六、七三一屯(原判決 九T表)

当期出炭量 ― 三六、九〇三屯(原判決 一一T表)

とし本社費の区分計算につき当期出炭量を採用販売収入のカロリー計算については出炭量を用いている

一定していない 事実誤認である

別表 振興鉱業所各屯数表

参照

二、丸吉鉱業所

(1) 出炭量 二八、七一八屯

丸吉一坑 二〇、九〇七屯

丸吉三坑 一四一屯

丸吉二坑 七、六七〇屯

これにて販売収入をカロリーにて区分計算している

(2) 本社費の区分計算にて

当期出炭量 三三、一一五屯

原判決二〇丁

を用いている

(3) 従って三三、一一五屯と二八、七一八屯との

差量 四、三九七屯

については何等説明がなされていない

即ち事実誤認、理由不備である

別表

「丸吉鉱業所各屯数表」

参照

振興鉱業所各屯数表

〈省略〉

振興鉱業所自家消費炭の配分及金額

〈省略〉

丸吉鉱業所各屯数表

〈省略〉

丸吉鉱業所自家消費炭の配分及金額

〈省略〉

丸吉鉱業所低品位炭(5,100カロリー以下)販売表

〈省略〉

丸吉炭坑出送炭実績表

〈省略〉

1. 田川四尺層の高品位炭4,023屯を低品位炭と混炭して販売している

2. 出送消費炭の数量が完全に一致する

3. 期末貯炭は0である

4. 判決で期末貯炭が零屯に拘はらず全体の出送炭を確実に計算しなかった結果上記の-4,242屯に加えるに期末貯炭が173屯ありと不用意に認定したので合計4,397屯の不当な数量の石炭が発生したものである

5. これはこの数字を基礎とした原判決の認定は正に事実を誤認し且つ理由不備の誤りがある即ち前記第42頁のように不突合いの赤字-4,397屯の発生した所以は丸吉鉱業所の出炭を

〈省略〉

の出炭に拘はらず

販売屯数を 33,460屯 と認定したから

その差が赤字 -4,397屯 となったものである

丸吉鉱業所の赤字であることを正確なる歩溜りによる正確な屯数と混炭販売分四、三九七屯は法人税取扱通達二六により免税所得にはその附随業務より生ずる所得を含むとあり正に丸吉二坑の所得であることより説明する

原判決は丸吉鉱業所の本社費を区分計算するに当ってその基準となる当期出炭量を

三三、一一五屯 (原判決二〇T表)

と認定した

これによれば検炭野取の出炭函数で出炭屯数は

丸吉一坑 二〇、九〇七屯

丸吉二坑 七、六七〇屯

丸吉三坑 一四一屯

合計 二八、七一八屯

であるから四、三九七屯は混炭分であるから

丸吉一坑 二〇、九〇七屯

丸吉二坑 一二、〇六七屯

丸吉三坑 一四一屯

合計 三三、一一五屯

となることは計数上明白である

石炭の販売は一屯いくらという単位であるからこれを一屯当り単価を求め前記屯数で免税坑と課税坑ととに区分計算すると

〈省略〉

右課税坑の右販売収入の外は原判決の数字を用いると課税は赤字となる

赤字 金七五〇万一、五八〇円七六銭

〈省略〉

第三点

第一 原判決は振興鉱業所、丸吉鉱業所各坑即ち免税坑につきその収入区分計算を左の通り認定し確定しているがそれには左の通りの違算がある

従って理由不備である

(1) 判示振興鉱業所収支計算書

(2) 販売収入振興鉱業所

(3) 期末貯炭について

(4) 繰越貯炭について

(5) 振興鉱業所石炭原価について

(6) 販売費について

(7) 判示丸吉鉱業所収支計算書

(8) 販売収入丸吉鉱業所

(9) 期末貯炭について

(10) 繰越貯炭について

(11) 石炭原価丸吉鉱業所

(12) 販売費について

(1) 半示振興鉱業所収支計算書

〈省略〉

(2) 販売収入振興鉱業所

1. 原判決は販売収入を 218,276,872円

販売屯数 36,903屯

と認定した

2. 原判決の認定した振興鉱業所の各種目の屯数は下表の通りとなる。

〈省略〉

3. これに46復興金融金庫関係書類綴からのカロリーを各坑別に出炭屯数に乗じ総カロリーを算出して各坑の販売収入を区別計算している

〈省略〉

4. 処がこの計算には誤りがある。

即ち原判決には違算がある

正しい計算

〈省略〉

即ち免税坑が15,750円27多額であり之に反して課税坑が同額少額となっている。

5. 原判決は前記第4項の誤算の外販売収入の区分の基準としている各種屯数に矛盾がある

即ち出炭屯数が36,503屯であるから繰越貯炭、期末貯炭を調整しても計数上36,675屯であるに拘はらずカロリーを乗ずる屯数を36,903屯としており228屯も超過している

即ち理由に齟齬がある

6. 更らに原判決は販売屯数を36,903屯と認定しこれを両坑に区分している

全坑 免税坑 課税坑

36,903屯 32,167屯 4,736屯

然らば石炭は一屯いおらの販売であるから販売収入を販売総屯数で除し、単価にて各坑の販売収入を区分計算するのが実際にも近く且つ推計計算に合理性と妥当性を附与するものである

即ち下記の通り

〈省略〉

(3) 期末貯炭について

1. 原判決は振興鉱業所の期末貯炭を

189屯 515,625円16

と認定判示した(判決11T表裏12T表)

2. これを昭和27年3月分の両坑の出炭量で按分計算した

〈省略〉

3. 然れ共この計算には違算がある

〈省略〉

(4) 繰越貯炭について

1. 原判決は振興鉱業所の繰越貯炭を

361屯 1,116,760円72

と判旨し361屯を昭和26年3月分の各坑の出炭量にて按分計算した

〈省略〉

2. 然れ共上記計算は下記の通り誤算がある

即ち

1,116,760円72÷361屯=3,093円52

〈省略〉

(5) 振興鉱業所石炭原価について

1. 原判決は石炭原価の明細を下記の通り認定しこれを専属区分された経費6.7,646円16を含む99,586円05と認定し之を免税坑と課税坑に出炭函数の比率で按分計算した。

〈省略〉

2. 然し原判決の計算には違算がある

〈省略〉

(6) 販売費について

1. 原判決は23T表同裏において振興鉱業所の販売費を10,423,270円と認定し之を出炭函数で按分計算した

〈省略〉

2. 然れ共この計算には違算がある

即ち正当な計算は下記の通りである

〈省略〉

即ち367円10づつの増減の違算である

3. 次に販売費は石炭の貨車運賃であるから1屯いくらで納金したもので販売屯数によるべきものである函数にて負担すべきものではない

4. 判決によれば振興鉱業所各坑の各種屯数は下記の通りであると認定している

以下屯数である

〈省略〉

5. これに基いて販売費を両坑に按分して区分計算すると下記の通りとなりこれを実際の両坑の負担額である

〈省略〉

(7) 判示丸吉鉱業所収支計算書

〈省略〉

(8) 販売収入 丸吉鉱業所

1. 原判決は187,612,623円81 29,063屯と認定し判旨している

〈省略〉

2.これに〈91〉分析成績表〈46〉復興金融金庫関係書類により各出炭のカロリーを認定しこのカロリーに前記の出炭屯数を乗じたる総カロリーにて按分計算している

〈省略〉

3.然しながら前記判決の計算には誤りがある

〈省略〉

以上が正しい計算である

即ち原判決の計算関係は13,450円17が誤差がある

4.更らに原判決は上記の通り各坑の販売屯数を認定しているがこれは誤りである

〈省略〉

送炭明細簿その他により丸吉鉱業所の販売屯数は33,294屯であることは明白である

この内205屯を自家消費炭として風呂焚に使用している

〈省略〉

その詳細は別表に記載している

従って不正確な出炭屯数に実際用いられていない統計上のカロリーを乗じてそれに両坑の販売収入を区分計算することはこの推計計算に正当性や合理性を与え得るものではない

(9) 期末貯炭について

1. 原判決表示

期末貯炭 173屯 840,312円45

(28T裏.29T表)

それを昭和27年3月分の出炭量即ち

〈省略〉

2. 然して余護人の主張期末貯炭零である

それは検炭野取帳、日別出炭予定実績表に基く別紙丸吉炭坑出送炭実績表、丸吉炭鉱の坑別炭層別実際出炭屯数計算書記載のとおりであるからである

3. 仮に然らずとするも原判決の区分計算には誤算がある

4. 正確な区分計算

(1) 免税坑と課税坑の割合

〈省略〉

〈省略〉

(2) 1屯当り平均単価

〈省略〉

(3) 即ち原判決の計算は免税坑が1,722円40少く課税坑が之に反して同額多額になされている誤りがある。

(10) 繰越貯炭について

1. 原判決は繰越貯炭を518屯1,818,299円43と判示している(判決29T裏、30T表)

2. 然してこれを両坑の昭和26年3月分の出炭量の割合で区分計算し

〈省略〉

これで上記金額を按分計算し

〈省略〉

と認定した。

3. 然れ共以上計算には誤算がある

〈省略〉

即ち

原判決の計算は

免税坑が208円51少く課税坑がこの同額多くなっている

(11) 石炭原価 丸吉鉱業所

1. 原判決の丸吉鉱業所の石炭原価、費目、免税坑、課税坑の金額は下記の通りである。

〈省略〉

2. 然れ共原判決の両坑の区分計算に違算がある

〈省略〉

(12) 販売費について

1. 原判決はその42T表、裏43T表において

販売費を 8,002,797円 と認定した

之が両坑の負担部分を出炭函数にて区分計算した

〈省略〉

従って 免税坑 2,068,723円02

課税坑 5,934,073円98

2.然れ共之には下記の通り違算がある

〈省略〉

〈省略〉

即ち

〈省略〉

〈省略〉

が正しい計算である

3. 原判決は販売費の性質内容を誤解している

販売費は貨車積の運賃である

1屯いくらで計算する函数の介入する余地は全然ない

4. 以上により販売の貨車送りの屯数にて区分計算すべきである

自家消費炭は之を除外すべきである

5. 即ち下記の通り

〈省略〉

6. 更らに送炭明細簿により販売費は8,225,860円が正当である

第四点 原判決は振興鉱業所の旧坑は免税坑であることの弁護人の主張を認めず課税坑としているのは事実の誤認である

然もそれは原判決の計算でその所得金一二〇三万八、九二〇円八二銭と認定しているので判決上影響を及ぼすこと甚大である。

(一) 振興鉱業所旧坑所謂租鉱区一三四号よりの出炭の販売収入は免税所得である

(二) 昭和二六年一月三一日より改正鉱業法施行租鉱権設定された

右租鉱権の登録磅謄本は昭和二五年三月一五日より昭和二八年三月一五日迄である

(三) 従って昭和二六年度は正に免税期間に属する

(四) それ以前の出炭は日鉄鉱業の下請業者の出炭である

(五) 採用証拠目録の各証人の外、鉱業原簿謄本、施業案認可申請、同認可書により立証することができる

第五点 原判決は事実を誤認し且つ交際費の解釈を誤っている

(一) 当時の法人税法は交際費の制限がなかった

(二) 被告会社は三井鉱山より鉱区並その設備一切を譲受け日鉄鉱業からは租鉱区反鉱区を譲受け創業した被告会社の東京本社の実体と三井鉱山日鉄鉱業との関係

(昭和三九年一二月八日付徳永弁護人の弁論要旨七項参照)

(三) 即三井本社、日鉄本社との交渉、飲料水の供給の懇請、鉱害の処理、坑内揚水のこと等鉱山経営全般に両社の協力、援助をうけていたものである

これ等の会合、交渉交際の各費用として昭和二六年度に実に三、〇〇〇万円以上使っている

(四) 当時の法人税法では交際費は無制限であった拘はらず相手方の内部事情を考え経理に当る者が他の費目としたものである

(五) 被告会社の経理担当者が炭坑の経理事務の経験に乏しく為に交際費の項目を使はず他の費目に振り替えたりしている

この外石炭原価の内容も知らず収支計算で昭和三四年二月検察官より指摘されたように石炭原価の内

振興 末記帳 金九四二万五、六一四円九三銭

丸吉 末記帳 金一四三五万一、八四二円七九銭

の多額を記載洩れとしたような杜撰なものであった

1. 検察官提出

昭和三四年二月

証拠説明書

参照

2. 別紙参照

(六) 尚以上は採用証拠目標外証人用中房子

その他一件記録による証拠で立証できる

丸吉炭坑

〈省略〉

振興炭坑 (S34.2)

〈省略〉

第六点 原判決の刑の量定は不当である

第一 被告人田中隆博について

1. 同人には被告会社に対する実権がなかった

その給与も一般職員並みであった

炭坑事業は四囲の状況に適応し運営しないとその事業は極めて困難なものである

即ち公害、鉱害、土地の陥落、井戸水の涸喝それと坑内揚水など近隣の大手の礦山の援助と協力に依存することが多く東京本社はこのことに莫大な交際費を使っている

このような費目は交際費として認められるところ相手方の地位、身分を考え他の費目とすりかえている

2. 更らに税務署員の不親切、不勉強から当然免税坑となるべきものを面倒なりとし妥協にて一定額の申告をなしたるもので被告人には犯意がない

3. 当初福岡国税局にて振興椿坑の免税を認め更らに寺下検察官が丸吉二坑の免税を認めたような経緯で被告人が当初から新坑免税を主張その手続きを尋ねのを拒否し妥協したものである

4. 尚申告税額は納入し更正税額も昭和三〇年五月二〇日全従業員解雇廃山し交付金で全額納入済みの筈である

5. 被告人は給与以外は厘毛も取得していないし大部分は東京本社の事業の維持、拡大のため或は将来のため費消されている

第二 被告会社について

被告会社も大掛りの査察のため全帳簿類その他の記録を失い信用を失墜しついに間もなく昭和三〇年五月二〇日銀行融資を拒絶され全員解雇廃山の止む無きに至った。

当初は大掛りの脱税として騒がれたが二〇年余の審理の結果は比較的少額な事件となったが刑事訴訟の真真実発見の理念を旨とすれば田川四尺層の高位炭の混炭販売は免税坑の附随的収入であるから免税所得となると脱税の事実はないこととなる

以上により被告人らに対する原判決の刑の量定は不当である。

採用証拠目録

上申書

事実具申書

第二陳述書(其の一)

第六陳述書

第三事実具申書

第九回陳述書

第一一回陳述書

第一四回陳述書

第一五回陳述書

第一八回陳述書

第二〇回陳述書

控訴趣意書

反論書

陳述書

以上弁護人提出

検証調書

証人 松井静郎 41・1・12

証人 曽我部薫 34・10・20

証人 久富辰市 34・11・17 35・3・15

証人 小山内弘 35・6・28

右 同 39・2・21

右 同 43・2・20

右 同 49・3・12

証人 西沢良雄 35・10・15

証人 三浦伊佐美 39・3・3

証人 川原紀明 35・10・15

右 同 39・3・17

右 同 43・3・12

右 同 49・1・25

証人 渡辺藤次 39・2・25

証人 下坂卯一 34・1・13

証人 下河内邦彦 33・11・20

証人 亀谷実雄 34・9・15

証人 塩出幸男 34・6・13

証人 塩出寅己 34・6・12

証人 河野正直 43・5・7

右 同 49・1・25

被告 田中隆博 39・11・17

以上各供述

銘柄別出送炭実績表

送炭明細簿

弁解上申書

検炭野取帳

日別出炭予定実績表

福岡通商産業局長証明書

炭柱図

カロリー分析表

証人 宮永正雄供述 48・9・18

証人 石井重雄供述 48・9・12

被告本人 田中隆博供述 51・1・19

証人 上野利光 32・12・9

同 堀川正男 34・5・18

同 三浦伊佐美 34・5・18

同 田中フサ子 34・5・19

同 柳浦隆三 〃

主たる立証事項

一、昭和三五年一一月二六日付第三事実具申書の陳述事項

二、昭和三七年五月二六日付第一一回陳述書の各石炭層の採堀状況、採堀条件カロリー歩溜り

三、混炭販売の方法

四、丸吉炭坑の水洗方法、歩溜り率、分析表

五、送炭方法 貨車送り

六、各坑口の位置並運搬送炭の状況

七、鉱害の最終処理状況

八、坑内夫、坑外夫の割合比率

九、各坑の坑内外の設備状況

十、炭柱図について

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